私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 5

 あれから幾年いくとせ

 四歳だった少女は、立派な大人になっていた。


 三千世界の果てに産まれたであろうアキィと出会う事は、未だ叶っていない。


 それでもアリンは、彼への恋情を諦める事はなかった。


 輪廻は廻っている。

 万象がある限り。

 世界がある限り。


 ここではない何処か。

 今ではない、いつか。

 

 そこに彼は居るのだ。


 見果てぬ夢は、彼女の恋は――まだ終わらない。


 果たして。


 アリンは遂に、アキィの痕跡を発見した。


 それは偶然の産物。

 空間転移魔法の研究をする魔導学者により、結果的に彼女の夢は現実の物となった。


 魔法学に一石を投じた事もあるアリンは、その界隈では一目置かれる存在だった。


 特に空間転移魔法テレポート――空間を飛び越える魔法に関して言うと、彼女は第一人者と評しても過言ではない。


 噂程度になるが、彼女こそが空間転移魔法テレポートを初めて成功させた魔導士だと言われている程。


 ここに関しては、本人の口から直接言及される事がなかった為、その真意は不明とされているが、彼女が空間転移魔法に大きく関わっている事だけは確かだった。


 これらの理由から、新しい空間転移魔法テレポートの実験をする場に参席する事になって行くのだ。


 この時、微かに流れて来た魔力の残滓から、アキィの面影となる物を発見した。

 正確には『発見してしまった』と述べるが正しいのかも知れない。


 運命の歯車が大きく回り出した瞬間とでも言うべきか?

 単なる実験から産まれた偶然の産物に過ぎない代物が、彼女の心を大きく揺さぶった。


 その後、実験は『失敗に』終わった。


 元来の実験では、空間転移を使って『より多くの人間を運ぶ』と言う試験運用をする予定だった。


 現代魔法学では、空間転移魔法を発動する事は出来ても、人数制限があった。

 それだけ術者に大きな負担が掛かる、極めて高度な魔法であったからだ。


 そこで、術者の負担を減らす事で、多くのリソースとなる魔力を確保する為の魔導式研究がされていた。


 今回は、そのお披露目会でもあったのだ。


 所が、いざ魔法が展開されるといきなり魔導式が暴走。

 想定外の暴走により、周囲は騒然となった。


 突発的に起きた謎の暴走は、極めて重篤な事故とされ、その後の研究に大きな影響を与える事となって行くのだが……それはまた、別のお話だ。


 もう、お分かりだろうか?

 この事故は意図して起こった物だ。


 空間転移魔法テレポートの試験が開始された時、偶然にも開いた亜空間の果てから、アリンにとって命にも等しい人の残滓が感じられた――刹那。


 アリンの身体は動いていた。

 魔導式の暴走が始まったのは、この数秒後であった。


 アリンが強引に別次元の扉をこじ開けようとした。

 この強引な力技により、魔導式が暴走してしまった。


 本来あるプログラムとは全く異なる別のロジックを強制的に展開させ、相反する効果が発動された事で、魔導式は完全な制御不能状態に陥った。


 制御不能となった事で、亜空間の扉が無秩序に広がり、薄幸の剣聖様が巻き込まれる形で吸い込まれてしまうのだが……ここは、余談程度にして置こう。


 こうして、アリンは転生したであろう恋する彼の元へと旅立った。


 もしも――また巡り合えたのなら。


 最後に言った、彼の言葉だけを心の支えにして。


 途中、彼の残滓を上手に発見する事が出来ず、小耳に挟んだ剣聖の相棒でもある日葵の存在を知り、助けを借りながらも――遂に辿り着いた。


「アキ……今度こそ、私はあなたと一緒に『同じ世界を』生きたい!」


 真剣極まる顔付きのまま、切実な想いを胸に抱えて眼前のアパートへと歩を進めた。




~この世界のアキィは、二十七歳のサラリーマン~




 ボロアパートは、子供の頃から住んでいる名残だった。


 繁華街の裏路地にある現在の自宅は、両親の関係で住んでいた。

 父も母も水商売をしていた為だ。


 尤も、今はいい歳になったので、田舎で隠居暮らしを満喫していた。

 中々に良い身分である。


 両親には『一緒に暮らさないか?』と勧められたが、田舎暮らしはまだ早いと断りを入れていた。

 

 結果、昔から馴染みのあるボロアパートに一人で暮らすと言う、今の状態に落ち着いた。


 住めば都とは良く言った物で、チンピラ達が跋扈する路地裏も、顔馴染みが多くなるとそこまで暮らし難い場所ではなかった。


 もっと言ってしまうと、彼には子供の頃から特殊な力が備わっていたりもする。

 これに関しては、彼本人も謎でしかないが、魔法染みた事が何故か出来てしまうのだ。


 右手を添えるだけで相手を吹き飛ばす事が出来たり、火を操ってみたり。

 超常現象と言える様な事柄を可能にする能力があった。


 ここらの関係もあり、多少腕っぷしの良いチンピラ程度では、彼の足元にも及ばない。


 持ち前の穏やかな性質と、人一倍誠実な人柄も相まって、一種のカリスマ的な存在になっていた彼だが、職業はサラリーマン。

 極々一般的な営業商社に勤務していた。


 直近での頭痛の種と言うか、悩みは親からの申し出。

 そろそろいい歳なんだから、せめて婚活の一つぐらいやってくれ。


 今年で二十七歳となるのだから、ごもっとも過ぎて反論出来ない。

 だからこそ、直近の頭痛の種として悩むハメになるのだが。


 そんな彼の名前は、秋田あきた誠司せいじ


 コンビニで買った冷食のおつまみと、一杯の缶ビールを楽しみに生きる未婚のアラサー男だ。


 果たして。


 彼にとって全く予期せぬ出会いが到来するのは、ここから間もなくの事であった。


 ピンポーン!


 自宅の呼び鈴が鳴る。


「……ん? なんだ?」


 誠司は眉を捻った。

 自慢にならないが、誠司のボロアパートを訪れる人間は少ない。


 何せ、場所が場所なのだ。

 輩が多いエリアと言える場所に好んでやって来る者など、余程の物好きでもない限りは存在しない。


 すると、知人と言う線は薄い。

 けれど、勧誘にしては変だ。

  

 部屋にある時計を軽く見ると、現在時刻は夜の八時を軽く回っていた。

 なんの勧誘であろうと、こんな時間まで仕事をしいてる真面目人間であるのなら、その熱意を活かして別の仕事に転職しろと言ってやりたい。


 すると……誰が呼び鈴を鳴らしているのか?


「こんな場所で、こんな時間に?」


 不審な香りさえ漂って来る。

 誠司は怪訝な顔になりながらも、自宅のドアを開けた。 

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