第一章 Re:ゼロから始める生活資金(金ねーんぢゃぁぁぁっ!) 6
「う~っ!」
直後、空中ブランコに乗っていたシズ1000が、ぴょんとブランコから降りて来た。
「……?」
日葵の頭上にハテナが生まれた。
何をするのかサッパリ分からなかったからだ。
しかし、彼女なりに抱いていた疑問は、アサヒの口によって解消される事になる。
「シズ1000が錬金術を使うからだよ」
「錬金術ぅ~?」
日葵の眉がよじれた。
またもや怪しいワードが出て、地味に懐疑心が脳裏へと『こんにちわ!』とやって来る。
反面、これまでの事を考えると、あながち嘘を吐いているとは思えない。
なんと言っても、言われた通りに練習したら、自分の右手から『ドォォォォォォンッッ!』と、得体の知れない爆発を起こせる様になったのだ。
この調子なら、アサヒが持っている銀色の小石も、山吹色に輝く純金に化ける可能性だってある……かも知れない。
なにより、ここでアサヒの宣言通りにならないと、マジで路上生活待ったなしだ。
ここは、藁にも縋る気持ちでシズ1000のやる事を見届けようと考える。
藁と言うより、霞に縋っている様な感覚ではあったのだが。
「う!」
声を吐き出したシズ1000は、ぴょんと跳ねて小石が乗っているアサヒの右手までジャンプした。
体長ニ十センチの謎人形とは思えない、驚異的な跳躍力だった。
身体の大きさの関係上、大きめの石ぐらいのサイズになるシズ1000は、両腕で抱え込む形で小石を掴むと、再びぴょんとジャンプして地面に降りた。
「う、う! う~っ!」
銀色の小石を抱えたシズ1000は、一旦地面に小石を置くと、虚空に向けて両手を広げた。
刹那『ポンッ!』と言う音がする。
小さく弾けた様な音と同時に、もくもくと白い煙が立ち上がり――まるで手品でも見てる様な感覚で何かが出て来る。
現れたのは直径三十センチ程度の釜だ。
全体が銀色で、上部に蓋が付いている。
下の部分は四つ足の支柱みたいな物が付いており、これで全体をしっかり固定している模様だ。
「凄いね、魔法みたいだ」
日葵は目を輝かせて言う。
心躍る見物人になってた。
「みたいも何も、まんま魔法だぞ? 俺の世界では錬金術も魔法学に分類されてるからな?」
直後、アサヒは右手の人差し指を立てて、日葵に説明して行く。
どうやら、彼らにとって錬金術は常識的な模様だ。
日葵にとっては眉唾級の代物ではあったが。
日葵とアサヒは、しばらくシズ1000の様子を見ていた。
すると、錬金釜なんだろう代物を出した所で、再び床を調べていた。
「あれは、何をやってるの?」
「倒したゴブランの魔石を探してるんじゃないのか?」
アサヒに言われて気付いた。
そう言えば、複数匹いたのだ。
「え? もしかして……魔石って、一匹に一個ある物なの?」
レアなドロップアイテムか何かだと勘違いしていた。
「あれは魔物にとって生命維持に必要な核だ。一匹に一個ずつあるのは普通だと思うぞ?」
アサヒは顔で『何を当たり前な事を言ってるんだ?』と言うばかりの態度を露骨にみせていた。
日葵の眉が大きく捩れる。
「アンタのトコの常識を語られても困るんですけど?」
分かる筈もない異世界の常識を求められ、地味に腹立たしい気持ちになってしまった。
――とは言え、これは嬉しい朗報である。
さっきの小石で百六十万だ。
魔石にも個体差はあるかも知れないが、他の魔石もそれなりの価値が生まれる事は間違いないだろう。
しばらく地面を探していたシズ1000は、全部で四つの魔石を見付けていた。
「意外と居たんだね、あの化け物」
「見てなかったのか? 自分で爆破させたのに? 普通に居たろ? 五体」
「あたしはアンタのよーな目をしてないんだよ!」
地平線の石ころすら判別出来るヤツなら見えていて当然かも知れないが、一般人の日葵にそんな視力なんぞなかった。
全ての魔石を回収したと思われるシズ1000は、錬金窯の蓋を開けでからポイポイと釜の中に魔石を放り込んだ。
直後――
ピィィィィィッッッ!
――汽笛の様な甲高い音と同時に、錬金釜から真っ白い水蒸気の様な物が噴射され、地味にガタガタと暴れる様に釜全体が震え始めた。
「あれ、大丈夫なの?」
「当たり前だろ? 何処におかしい所があるんだ?」
見る物全てがおかしいんですけど?……と、言ってやりたい日葵が居たのだが、きっとこれも異世界との間にあるカルチャーショックなのだろう。
外国ですらカルチャーショックが大きくて驚かされる事があるのだ。
異世界となれば、驚きの連続であってもおかしくはなかった。
以後、錬金釜がガタガタと震える中、シズ1000は釜の前に陣取る形で様子を見ている。
どうやら、錬金をする工程的に、今は待つ状態だったみたいだ。
そこから待つ事、約五分。
「う!」
シズ1000が動いた。
虚空に向けて『ババッ!』と両手を広げた。
ワンテンポ置いて、両手を広げた虚空に文字の様な物が浮かび上がって来る。
淡い黄緑色の光みたいな物は――
(パラジウム格子+低励起核変換場)
×(選択酸化ブレンド:Ar基調/O₃ 5–20 ppmv/NO 0.5–2 ppmv)
+(亜空間アルゴン・カプセル[微小放電クエンチ])
+(β経路タイムロック:^197Hg→^197Au 窓固定)
= 黄金錬金(^197Au 収束)
――なんだか良く分からない魔導式が描かれていた。
「……あれは何?」
「黄金に変える為の魔導式だ。言うなれば黄金に変える為のレシピみたいな物だな」
それとなく尋ねた日葵に、アサヒは軽やかに声を返した。
顔を見る限り、これも常識っぽい。
またこのパターンかよ!……と、胸中でのみツッコミを入れる。
そろそろ、彼らとのカルチャーショックに気疲れを感じる日葵がいた。
他方、困った事にも魔導式を見た瞬間に、ちゃんと純金になると理解出来てしまう日葵がいた。
なんなら、見た瞬間に頭の中へと魔導式が刷り込まれた気がする。
「この一瞬で、あたしの頭に『あの魔導式を』インストールですか? おいおい……自分が怖いんですけど?」
日葵はポツリと呟いた。
なんだか、自分が自分じゃなくなってしまった気がした。
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