第一章 Re:ゼロから始める生活資金(金ねーんぢゃぁぁぁっ!) 2

「私達の世界に、魔法なんて概念はないんですけど?」

「なるほど、だからここまで科学が発展してるんだな」


 顔で『魔法なんて概念なんかねーよ』と言うばかりに声を吐き出す日葵へ、アサヒはやや納得する感じの声を返した。


 ちゃんと会話になっているのか怪しいが、一応の納得はしている模様だ。


「そんな事より、まずはモンスター討伐からだ。これをやらないと日葵も困るんだろう?」

「……いや、まぁ……困ると言えば困るんだけど」


 アサヒの言葉に日葵は少し口ごもる。

 自慢にもならないが、日葵は身体を動かすのが苦手だ。


 ブラック企業で働いていた時も、肉体労働ではなくて完全なデスクワークだった。


 まして、モンスターを相手にリアルファイトなど出来る筈がない。


「さっきも言いましたけどね? あたしはこれでもか弱い乙女なんですよ? モンスターなんてコントローラー越しでしか倒した事ないワケよ? 分かる? 剣聖様?」

「ふぅ~む。そうか。つまり日葵は魔法が使えない……と?」

「使えるわけねーだろが!」


 そんなの使えたらブラック企業なんか行ってねーよと言いたい。

 日葵は、真顔で言って来る剣聖様の顔面にグーパンを入れてやりたい衝動に駆られた。


 しかし、それは止めにして置く。

 さっき黄金の右を叩き込んで分かったのだが、剣聖様は無駄に固かった。


 今でも日葵の右拳はジンジンしている。

 そうだと言うのに、剣聖様は全くのノーダメだった。

 思い切り殴打した筈だと言うのに、頬が腫れる所か掠り傷ひとつない。


 本当に剣聖かどうかは分からないが、超人である事は間違いないし、喧嘩を吹っかける相手としては不毛だと達観した。

 

 そこはともかく。

 日葵の話を耳にしたアサヒは少し考えるような仕草を作ってから口を開いた。


「……少し前にも言ったが、お前には『大魔導』の才能がある。なんなら魔法が使えなかった事に驚いてるぞ、俺は」

「そう言われてもねぇ……」


 アサヒの言葉に日葵は肩をすくめた。

 万能科学の世界で、やれ魔法だ魔導だと抜かした日には、ラノベの見過ぎかアニメに感化された末期のオタクと思われるのが関の山だろう。


 現実的に考えて、魔導を実用的な物と考える事など出来る訳がない。

 笑いものになりたいのなら話は別だろうが、日葵は笑いものになりたいと言うふざけた欲求はない。

 

 所が、そのふざけた話を本気になって口にする自称剣聖様。

 はてさて、何処まで真面目に話を聞けば良いのやら……と、胸中で吐息交じりに考えていた頃、それは起こった。


 ポゥゥゥ……。


 突然、アサヒの右手が淡く光った。


「………っ⁉」


 日葵は目を白黒させる。

 新手のCGかと本気で思った。


 しかし、アサヒの手を見る限り、それがホログラムの類いであるとは思えない。

 そもそも、そんな機材が近くにあるとは思えないし、シズ1000が謎の道具を出してドッキリを仕掛けているとも思えない。


 いや、あの謎人形ならやるかも?

 だって、ソッコーでツベのアカウント作ったり謎のカメラとかぶら下げたりしてるし……とか、なんとか考えていた頃、アサヒは快活な笑みを『ニッ!』と作ってから言った。


「別に種も仕掛けもないぞ? これが魔法だからな?」

「これが、そうなの?」


 どうやら、本当に魔法の概念があるらしい。

 日葵は、淡く光るアサヒの右手をマジマジと見据えながら、胸中で納得してみた。


「正確には、これはマナだな。無属性の魔力ってヤツだ。このままだとなんの意味も持たないと言うか、無属性魔法を使う事は出来るが、基本はあんまり意味のないヤツだ」

「ほうほう……で? これをどうすれば意味のある物に変わるの?」


 説明して行くアサヒの言葉に、日葵は少し興味を持った顔になって尋ねる。


 アサヒは顎に手を当て、少し考える仕草を作ってから答えた。


「ん~? 魔導式ってのを使うんだが……分かるか?」

「分かんない」


 日葵は秒で否定した。

 これにはアサヒも苦笑だ。


「まぁ、そうだよな……そもそも、魔法の概念がなかったみたいだし」


 苦笑のまま、アサヒは少し考える。

 程なくして、考えがまとまったアサヒは快活に笑みを作ってから言う。


「じゃあ、簡単な魔法を覚えてから、モンスターと戦う事にしようか」

「………は?」


 こうして、日葵は魔法を覚えるとか言う、とってもファンタジーな勉強を強いられるハメになった。

 


 

 ~二時間後~ 




「ふぅぬぅぅぅぅ!」


 額から玉の様な汗を流しながら、日葵は顔を強張らせてみせる。

 一見すると、無駄に踏ん張っているような顔にさえ見えた。


「魔力は腕力では解決できないぞ? そんな無駄な力入れてどうすんだ」


 アサヒは少し呆れ眼になって声を吐き出していた。


 ――あれから。


 魔法を使う基礎として、まず自分の魔力を引き出す所から始めた。


 ここは個人差がある物の、大体の人間がクリア出来る内容である。


 ただし魔導の適正があるかないかで大きく変わる部分でもあった。


 魔導の才能がある者なら、教えるまでもなく自然と出来ている者も居れば、一週間経っても出来ない者も居る。


 果たして日葵はどうかと言うと――。


「ぬぅぅぅおぉぉぉっ! 感じろ、感じるんだあたし! これが出来ないと、今日のあたしは庭で野宿確定! それだけはマジで嫌だぁぁっ!」

 

 実は中々に飲み込みが早い。

 無駄に力んでいると言う謎の気合いは蛇足の極みだが、職なし金なし宿なしの三連コンボが功を奏したのか?

 既に魔法を発動させる一歩手前まで来ていた。


 踏ん張りまくっている両手には、赤いオーラみたいな物が見える。

 上級者になると、魔導力を示すオーラなど出すまでもなく、瞬時に発動させてしまうのだが、魔導士歴二時間の日葵にはまだそんな上等な真似は出来ない。


 だが、二時間で魔法が使える一歩手前まで来ているのは脅威的と言えた。

 どんなに才能がある人物であっても、通常なら一週間は必要になるからだ。


「やっぱり日葵には大魔導の素質があるみたいだな」


 アッサリ魔法が使えそうだった日葵を見て、アサヒは『うんうん』と陽気に難度も頷いていた。

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