グランド・ミスリルゴーレム

 この階層のボスは、街の最奥にある神殿に鎮座していた。

 ギリシャ神殿ぽい、どデカ石柱で支えられた神殿の中央だ。


 地球で言えば、これまた古代ギリシャっぽいデザインの、精巧な石膏像みたいな像が立ってる。

 だが、その全身は全てミスリルで出来ている訳だが。

 仮にこいつが美術館にでも展示されてるだけなら、その芸術的価値は計り知れないだろうな。


 ……こいつの場合、しっかり動いて俺達を殺しに来るんだが。




 ――深層ボス”グランド・ミスリルゴーレム”、ランクはA。




「グランド・ミスリルゴーレムは、本来ならBランク以上の冒険者のパーティで討伐するわ。

ただ、幸いにもこのボスは特殊な攻撃を殆どしてこないので、やりやすい部類のボスなのよね。

あなた達の実力不足は装備で補ったから、作戦通りにやれば勝てるはず」



 シアさんはそう言うけどさ……あれはヤバい、本当に勝てるのか?

 まだボスエリアに入って無いが、遠目で見ても理解出来る。

 


 2メートルほどの巨体から繰り出す攻撃、そして全属性の魔術半減、物理全般半減、おまけに動きもそこそこ早いらしい。

 つまり弱点は無い、簡単に言えば単純に強いゴーレムだ。


 あ、補足だけど一応ちゃんと服は来てるデザインの像だ、ローマっぽいアレな、トガって言ったっけ?

 真っ裸じゃなくてよかったな、ハハハ。



「相手はとにかく固いけれど、こっちの装備もミスリル製よ。

 当たればちゃんとダメージが通るから、構わずガンガン攻撃しなさい。

 今回はあたしも魔術を使うから、リリエラ以外は前に出過ぎない事。

 そして、少しでも危なくなったら下がること、いいわね?」

「りょうかい!」

「わかりました!」

「やるわよ!」



 そしてリリエラを先頭に、ボスエリアへと突っ込んだ。



『――オオオオオオオ……』



 ミスリルゴーレム、その動かぬ筈の口が開き、無機質な音が咆哮のように響く。



「よし!まずはこいつ!!」



 腰のミスリルソードは抜かない、俺の役割はリリエラのサポートだからな。

 糸を付けたナイフを、足元を絡め取るように投げる。


 ミスリル糸になったお陰で、魔力を通せば大分耐久性は上げられるようになった。

 とは言え、ゴーレムはパワーがある、一本では引きちぎられるし、下手すれば糸を掴んでいるこっちの手が持っていかれる。

 だが、手を離せば魔力も途切れて簡単に切れてしまうので、ギリギリまで手を放す訳にはいかない。




「その調子よ!『アイスフィールド』!」




 絡んだミスリル糸を振りほどこうとしたゴーレムが、シアさんの魔術で一瞬だけ凍らされた地面に足を滑らせ、尻もちをつくように転ぶ。

 魔術の使い方が上手いな、流石は歴戦の魔術師だ。



「いきます!はぁぁぁぁ!!」



 ミスリル製のバトルハンマーに改修されたリリエラの武器が、勢いよく振り下ろされた。

 だが、ゴーレムは腕を上げてこれを防ぐ。



「くっ!駄目でした!!」

「おいおい、アレを防ぐのかよ!?」



 ちっ、流石はAランク!

 リリエラのハンマーでミンチにならないとは!

 先は長そうだ……って、マズい!


 動きが早い!ミスリルゴーレムが、もう体制を立て直してる!!



「あーしに任せて!”みんなお願い!!”」



 ドンッ!という衝撃音、アゲハの精霊魔法だ。

 相変わらず派手にキラキラ☆したエフェクト付きの、空気の塊が砲弾のように飛んでいく。

 風の砲弾はゴーレムを少しよろめかせたが、大したダメージは見えない。

 ゴーレムはアゲハには目もくれず、硬質な拳をリリエラに振り下ろそうとしている。 

 だが、その間にリリエラも体制を立て直していた。


 

 『――オオオオオオオ!!』


 「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」 



 ゴーレムの振り下ろしをハンマーで弾き返した!

 ガギンッ!という衝撃音と共に、青白い火花が飛び散る。

 


「よし!いけるな!!」

「リリエラ!暫く大ぶりは控えなさい!」

「わかりました!!」

「あーしも頑張るわよ!」



 その後は暫く攻防を繰り返す、激しい戦いが続いた。


 俺達の攻撃も中々通らないが、ミスリルゴーレムの攻撃も決定打にはならない。

 ただし、俺達の体力には限りがある、最悪ボスエリアから逃げる事も出来るが、リトライするには食料が心許ない。


 出来れば、今日ここで決めたい。


 このまま泥仕合が続くかと思った時、ミスリルゴーレムが動きを止め、足に力を溜める様な動作をする。



「大技が来るわ!打ち合わせ通りよ!!『フリーズウォール』!!」

「りょうかい!」

「はい!」

「逃げるわよ!」



 俺達は、シアさんの作った”氷の壁”の後ろに全員で隠れた。



 ――ガンッ!ガガガガガ……



 ゴーレムが力強く右足を踏み鳴らすと、神殿の床材を巻き込みながら、扇状に衝撃波が地面を伝わり襲いかかる。

 シアさんが魔力回復ポーションを飲み干しながら防壁魔術に集中するが、その顔が苦悶に歪んでいる。



「くっ!壁が保たないわっ!!」

「任せて!”みんな守って!!”」



 氷壁が崩壊する寸前、風の結界が下から吹き上げるように俺達の眼前に現れ、すんでの所でゴーレムの攻撃を拭き散らした。



「偉いぞアゲハ!!」

「どーよ!フェアリーなめんなし!!」



 ミスリルゴーレムは口から大量の蒸気を吐き、動けないでいる。

 大技後の隙だ、聞いてたとおりだな。


 俺は打ち合わせ通り、手持ちのダガー付きミスリル糸を全て使い切るつもりで投げまくり、ゴーレムを拘束した。


 動きを封じておけるのは、今までの感じからいって……30秒程だろう。


 その間に、シアさんとアゲハは大技のタメに入った。



「”――不変なる無限の凍土は 永遠とわに美しき氷塊の監獄”

 『ダイヤモンド・プリズン』!!」



 まずシアさんの魔術が発動、ミスリルゴーレムの下半身が、分厚い氷に覆われて……ってヤバ!!俺の指まで冷たいわ!!

 あっぶね!!ミスリルが魔力の伝統率が良いとはいえ、この距離で糸越しで影響あるのかよ!?

 シアさんが味方になってくれて、本当に良かったな……。


 アゲハはまだ精神を集中してるな、つかあんな真面目な雰囲気のあいつ初めて見るんだが?

 まるで祈ってるみたいだけど、それで精霊魔術を使うつもりなん……!?



「”――道化の女王は願い請う イグニス・マリウス・フィロス・テラ 名を連ねる四界の盟友へ この祈り届くなら 絆のやじりを翅に”

『ハー=レイ=クイン』」



 ……あいつ、真面目に詠唱とか出来たのか!?

 とか驚いてたら、アゲハの背から四色の極光が吹き出し、巨大な翅のように広がる!!!


 やがてその光は彼女の眼前で収束し、そのまま渦巻いて光線のようにゴーレムに突き刺さった……え、凄くね???


 シアさんも「なっ!四属性混合魔術!?」とか言って驚いてる、何の話かすげー聞きたいけど今それどころじゃねえし!!ああもう!!



「――はぁぁぁぁぁぁぁっ!!いきますっ!!!」



 おお!流石リリエラ!!

 アゲハのシリアスなど意に介さず、すでにバトルハンマー構えて全力で走ってる!!



 ミスリルゴーレムは下半身が氷漬け、上半身は酸化したかのようにボロボロだ、動きも鈍い。


 そこにリリエラが全力でハンマーを振り下ろした!!


 ゴガッ!!!という金属同士のぶつかり合う振動が響くと、ゴーレムは頭から崩れるように壊れ……そのまま光の粒子に変わって消えた。

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