精霊の灯火
俺とリリエラがゼット団の世話になり始めて、一ヶ月が過ぎた。
荷物持ちとは言え、俺とゼットさん達には、かなりの実力差がある。
当初は足を引っ張って申し訳ないなーと思ってたが、俺とリリエラが荷物持ちをするようになってからは、稼ぎが倍に増えたので、むしろ助かってるらしい。
まあ、マッピング能力を自重せず使ってるので。
「なにせ曲がり角の向こうに、どの魔物が何匹居るかも分かっちまうからな!」
「こりゃもうクロウいらねえんじゃねえか?」
「荷物持ち、交代させるか?」
「そ、そりゃないっすよアニキ!」
こんな感じで。
ゼット団の面々は、俺が普通じゃないと気がついてはいるが、一切詮索はしてこない。
みんなお人好し……なのもあるが、それぞれみんなが、大っぴらに出来ない過去を持ってるみたいだからな。
要するに、お互い過去を詮索しない、それが暗黙のルールになってるんだろう。
回復ポーションは未だに見たこともないが、正直それはもういいかなって思ってる。
マップ見ながら戦うのにも大分慣れたし、不便が無いので。
アゲハも、たまに迷宮に着いてくる様になった。
それ以外は相変わらず、子供達と遊んでる。
ある日の真夜中、トイレで目覚めた俺は、部屋に戻る途中で、屋根に続くドーマーが開いてるのに気がついた。
「って、ミレアス何やってんの?」
「月を眺めてたのよ」
「……なるほど、今日はよく見えるな」
俺も屋根の上に登り、ミレアスの見上げる方に左目を向けた。
この世界の夜空はファンタジーあるあるで、月が2個浮かんでる。
普通の月と、それより一回り小さい月。
「星も綺麗に光ってるなー」
「そうね、明日も晴れるわよ」
初めてこの星空を眺めた時は、あまりに綺麗で一時間くらいぼーっと見上げてたっけ。
「……ほら、あそこ見て」
「……え?何すかあれ??」
遠目に見える入り組んだ建物の影。そのスキマから、ホタルのように淡く光る何かが、ふわりと宙に浮かんでいって……やがて消えた。
「”精霊の灯火”よ、精霊の活動が活発な場所でよく見られる現象」
「へぇー、もしかしてアゲハのせい?」
「そうね、私も森の中以外で見るのは初めてよ。
道に迷いそうな魂を、ああやって精霊たちが導いてくれてると、エルフ達の間では言われてる」
「……あの、それってつまり」
「誰かが亡くなったのね、あの辺りで」
「……そうか」
誰とも知らない人に冥福を祈り、俺は部屋に戻る。
「んん……あれ?ケン君起きてるんですか?」
「ちょっとトイレに行ってた……」
「すぴー……すぴー……んー、アガる……」
寝ながら床に落ちてたアゲハを拾い、枕の隣に寝かせてやりながら答える。
「……大丈夫ですか?何かありました?」
「いや、大丈夫……やっぱ少し駄目かも」
「……ほら、ケン君。リリの所に来て下さい、ね?」
言われるままにリリエラの隣に寝転んで、誘われるまま彼女の胸に顔を埋めた。
少し強めに抱きしめられる。
「リリはずーっと一緒ですからね」
「うん……ありがとう、リエラ……」
リリエラに顔を埋めたまま、俺は眠りに落ちた。
◇
統合ギルドにいくと、よく俺達を担当してくれる、厳ついハゲの受付さんが話しかけてきた。
「なあ、お前ら3人で組んでるなら、パーティー名決決めてくれねえか?」
「パーティー名ですか?」
「いいわね!特別アガるやつにするわよ!」
「でも、なんで今頃になって?」
「いや、フェアリー……アゲハがすぐ居なくなると思ってたからな」
それはそう。
「なによ、あーしはケント達とずっと一緒よ!」
「お、おう、そうかよ。まあそんな訳でな、ちゃっちゃと決めてくれや」
「あー、じゃあ”
「なんかアガんないわね!」
流石に駄目かー。
「じゃあ、”リリとケントのらぶらぶ冒険隊”がいいです!」
「やめてくれ流石に気恥ずかしい」
「ちょっと!あーしが居ないし!」
うーん、何か案がないものか。
そういや、昨日ミレアスに聞いた話……”精霊の灯火”、そのまんま使うのは芸が無いよな。
精霊……妖精……導く……。
「じゃあ、”
「いいですねケン君!」
「決まりね!さすがケント!」
「よし、んじゃギルドカードよこせ、登録しとくからよ」
という訳で、俺達のパーティー名は『フェアリーガイド』に決定した。
パーティー名を登録し、ついでに仮だったアゲハのカードも、ちゃんと正式に登録してくれるみたいだ。
ランクは、『☆彡』のままだが。
「そういえば、リーク達のパーティー名知らないな」
「パーティーの名前を登録するのは、Dランクからなので」
Eランクまでだと普通は入れ替わりが激しいから、手間になるだけなのでパーティー名までは登録しないんだとか。
俺も臨時でリーク達に合流してたもんな、なるほど。
今頃あいつらは何してんだろう、もうDランクに上がってるかな?
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