マッピング?

 宿屋は相部屋ということも無く、普通に個室だ。


 ただ、めちゃくちゃ狭いが。


 三畳くらいか?ベッドはあるが細い、荷物置き場もあまり無い、ネットカフェかな?

 意外なのは衛生面が良い事、変なニオイもしないし、シーツも綺麗だ。


 食事は食堂みたいな場所で出してくれる、もちろん金はかかるが。

 この部屋は、本当に寝る為だけの部屋だな。


 リリエラも同じ宿だ、確か2個となりの部屋かな?

 夕飯は一緒にと約束してるので、あっちの部屋がどんな様子なのか、後で聞いてみよう。

 ま、同じ間取りだと思うけど。




 ◇




 食事は肉と野菜のシチュー煮込み、それに固めのパンが2切れ。

 木の皿に分けられた料理を、パンを漬けたり大きめのスプーンで掬って食べる。



「美味しいですね!ケント君!」

「うんうん、美味いなリリエラ」



 煮込み料理は塩とハーブで味付けした、独特な風味の料理だが、結構美味い。

 まあ、ハラ減ってたので余計に美味く感じてるとは思うが。

 パンも最初は固いかなと思ったが、フランスパンとそんなに変わらない。

 ちゃんと噛んでるとほんのり甘みを感じる、お世辞抜きで美味い。


 食事しながらリリエラに聞いたが、この宿は俺みたいな初心者用の宿で、統合ギルドが出資しているらしい。

 安くて充実してるが、ギルドでのランクがDまで上がると、利用出来無くなる。



「ここまで低ランクに配慮してるのは、このエルズマークくらいですけどね」

「なるほどな」



 この街の近所に転移したのは運が良いのか、それとも意図的か……。

 何となく後者な気はする、根拠は全くないけどな。



 ◇



「……これは使えるかもな」



 夕食後の寝る前。

 小一時間ほど、あの使えないステータス画面を調べて、新たな発見があった。


 これ、周辺マップみたいなのが見れる。


 ただ、表示はワイヤーフレームで分かりにくい。

 それも最近のゲームみたいじゃない、人は棒人間で表示されるし。

 範囲もそんなに広くないな、50メートル?よく分からん。


 それでも、自分の周囲が俯瞰で分かるのは、大きなアドバンテージになるだろう。



 ……まあチートと言えるか微妙だな。



「……不意打ちを受ける可能性が減るだけで、ありがたいかぁ」



 危なくなる前に逃げるのが一番だ。


 ただ、リリエラも言ってた事だが、俺はこの世界の人間の平均より弱い。


 そりゃそうだろう、現地の人達は日常的に魔物の危険に晒されてる世界だし。

 そもそも、魔物を倒さないと強くならんとかいうシステムっぽいので。

 危険だと分かっちゃいるが、戦って強くならないと生き残れない。



「よし!明日からは頑張ってゴブリン退治だ!」



 なるべく弱い魔物で鍛えよう!





 ◇





 ――と、決意したあの日から一ヶ月経った。



「お、これも薬草だな」



 俺は壁の外で日々草むしりというか、薬草採取してる。

 街の中の仕事にくらべると危険はあるが、俺が一番稼げるのはコレらしい。

 例のマッピング機能のお陰で、魔物を避けながら採取出来るのが大きいな。


 まあ、何が言いたいかと言えば、特に代わり映えのない日々を過ごしてた訳だ。


 リリエラとは宿が同じなので毎朝会うが、あっちはギルドの仲介でEランク同士のパーティーを組んでるみたいだ。

 まだ固定では無いみたいだけどな、ギルド側はEランクに色々と経験させてるんだろう。

 そのうち、気の合うパーティーに巡り会えたら、固定で組むのかも知れないが。


 ちなみに、借金は割とあっさり返し終わった、よかった。


 実は、リリエラは最初は自分もソロでやろうとしてたが、ギルド職員のイザベラさんに強く止められた。

 女の子だからな、それに可愛いし胸もデカイので、ソロじゃ危険だろう、俺もそう思うし。



 正直、パーティーを組めないのが残念で仕方がない……。

 まあ、俺が弱いのが悪いんだが。



 武器は相変わらず最初に持ってたショートソードだ。

 リリエラにも相談したけど、当分はこれでいいだろうという話になった。


 魔石をほじくるのにナイフは買ったが、俺の場合は片手は空けてたほうがいいという結論になった。

 盾を持つと逃げ足も遅くなるし、何よりその積載量分、持ち帰る薬草の数、つまり儲けも減るので。


 なので、防具は革の帽子、胸当て、グローブ、ブーツの革シリーズだ。

 RPGだと最初の町で売ってるアレ、でも中々馬鹿にできない硬さだ、革ってこんな硬くなるのな。

 最初、革製品特有のニオイに慣れなかったが、今はもう気にならない。


 そんな感じで一日動いて、夜は早めに宿屋でグッスリだ。

 スマホもネットも無い生活だけど、暇になる時間は無い。

 我ながら、随分と馴染んだよな。



 ここで過ごして思ったのが、治安は思ってたよりも大分良いって事だ。


 ただ、道一本でも裏にいくと、あきらかにヤバそうな空気の場所とかもある。

 スラムとか、それに近い場所だ。

 あと、娼館とかある大人の遊び場な。

 俺も男の子なので、普通にえっちな事に興味もあるけど、さすがに風俗に行きたいとは思わないので。

 もっとも、14のガキがフラフラ歩いてたら、つまみ出されるだろうけど。


 娼館繋がりで、避妊とかどうしてるのかなと思ったが、女性は大人としての準備が出来るとまず教会に行き、そういうのを防ぐ魔術を掛けてもらうとか。

 それで、結婚する時にその魔術を教会で解いてもらうらしいく、その後そこで結婚式も挙げる。

 合計3回ほどが入ってくる仕組みな訳だ、うまいこと考えてんな教会。



 戦闘面だけど、あれから何度か魔物と戦った。

 ゴブリンだけじゃなく、グレイラットとかいうネズミとか、グラスラビットとか言うウサギ、ただしサイズは中型犬くらい。

 全部Fランクの魔物だけどな。


 お陰で魔力が増えたのか、前よりは動けるようになったな、筋肉量も増えてると思うし。


 とにかく、今ならゴブリン2匹くらいなら大丈夫だ、実際リベンジしたし。

 人の形した生き物を殺すのにもっと抵抗が有るかと思ってたけど、こっちも命掛かってるからなのか、あんまり考えずに今日までやってこれたな。

 魔石をほじくるのにも大分慣れたした……最初はグロくてマジきつかったけど。



 流石に、人を殺したことは……まだ無い。



 ただ、盗賊やら山賊やらも、出る所には出るらしいので、そのうち経験する事にはなるんだろう。


 ……考えたくないが、俺も死にたくはないし。

 その時になったら、覚悟を決めるしか無いだろうな。


 そんな事を考えつつも、いつもの様にコソコソと薬草を採取していた時の事だった。



「キャァァ!いやぁぁぁぁ!!」


『グギャギャギャ!!』



 女の子の悲鳴!?それにゴブリンか!!

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