4-3 嵐の前の静けさ

 マリウス達が宿を出発してすぐに、宿の主人が慌てて追いかけて来ていた。


「申し訳ありません!ハシムから言伝ことづてを頼まれていたのをすっかり失念しておりました…。『エッグ・プラントの地に最強の弓使いがいます』と、これだけ伝えて欲しいと言われまして」

「そうでしたか…忙しいのにわざわざ伝えてくださりありがとうございます」

「いやいや、先ほどハシムの事を聞かれた際に伝えなければならなかったものを…それでは道中お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 店主はマリウス達が見えなくなるまで、深々と頭を下げて見送ってくれた–––––。


「最強の弓使い…か。リン、エッグ・プラントって言うのはどの辺りにあるんだい?」

「はい、ミトから西に向かった所にある町です。温泉などでも有名ですね」

「温泉か、いいねぇ」


 リンの情報にアベイルが食い付いたが、マリウスは真剣に今の戦力について考えていた。


(確かに今の僕たちには遠距離からの攻撃手段が無い。それ程の使い手がいるなら味方に出来たらとは思うけど––––)


「ハシムも腕の良いハンターですから、彼が言うなら間違い無いと思います。ミトで用事を済ませた後にでも向かってみませんか?」

「そうだね…そうしようか」


 フォーダの意見にマリウスが賛成し、皆も頷いた。ハシムが残してくれた情報に感謝しつつ、マリウス達はミトへ向かって再び旅立った。




 フォレスト・シティまでの険しい山道とは違い、比較的平坦な街道を進む分順調に旅路は進んだ。


 マリウス達一行は、夕方を迎える頃にはミトに辿り着く一歩手前の町まで来ていた。


「あともう少しでミトに着きますが…」

「分かった。もう暗くなって来ているし、今日はこの町で一泊して明朝ミトに入ろうか」

「確かにその方が良さそうですね…おい、アベイル。偶には俺たちで宿を探してくるぞ」

「ん?ああ、分かった」


 戦闘以外でも何か役に立てればとカイなりに考えたのだろう。アベイルを連れて町の中へと入って行った。


「それでは私も情報を集めに行って参ります」

「うん、頼んだよ」


 続いてリンも町の中へ消えて行った。オズマとナムールはこの隙に武器の手入れをしている。


「それぞれがやる事を考えて動いてくれてますね」

「ああ、頼もしい限りだよ」


 フォーダの言葉に同意するマリウスだったが…そこにレーナとジュリオが話しかける。


「あの…私たちにも何か出来る事はありませんか?」

「俺たちも何かしたいんです!」


 仲間の自発的な行動を見て、二人も居ても立っても居られなくなったようだ。


(とはいえ、ジュリオもレーナもよくやってくれてるんだよなぁ…野営の時は率先して食事の支度をしてくれたり、見張りを買って出てくれたり––––逆に無理はしないで欲しいくらいだよ)


「馬達の様子も見てないといけないし、ここで一緒に待っていてくれればいいさ。そうだ、いい機会だから今後の話でもしようか」

「今後の…話ですか?」


 ジュリオとレーナはミトに着いた後も、マリウスへの恩返しとして旅に付いて行くつもりだったため…先の話と言われてもピンと来ていなかった。


「うん。ミトでの用事が済んだ後も、元の世界に戻るための手掛かりを探しに各地を訪れる事になると思うんだ。そこで僕たちが何かあった時に戻れる拠点をミトに作りたいんだ」

「いいアイディアだと思います!今は良いですけど、これからも仲間が増え続けていけば全員で行動するのも大変になりそうですし…」

「今、正にフォーダが言ってくれたように…仲間は多い方がいいけど全員で動くわけにも行かない時もあると思うんだ。そこでジュリオとレーナにはその拠点––––僕たちの帰る場所を守っていて欲しい」

「なるほど…」


 拠点に残って欲しいと言うマリウスのお願いに対し、二人はあまり納得の行かなさそうな表情をしていた。


「それってやっぱり…俺たちが足手まといだから、置いて行くって事ですかね?」

「そういうわけじゃ…」

「––––私もそう感じました。確かに私たちは戦闘に関してはお力になれませんが、何かお手伝い出来る事はあると思います!」


 普段は穏やかなレーナが声を大にして訴える剣幕は、剣の手入れをしていたオズマとナムールが思わず手を止めて振り向くほどのものだった。


「ご、ごめん…僕の言葉が足りなかったみたいだ。君たちの力は勿論当てにしてる––––ジュリオの鍵開けの能力は色んな場面で役に立つと思うし、レーナの人を癒す力は今後大いに僕たちを助けてくれると思う。だから二人の力が必要な時は遠慮なくお願いするよ」

「俺はいつでも声を掛けてくれるのを待ってますよ!」

かしこまりました。私もいつでもお力になれるよう準備致します」


 なんとか二人に納得して貰えた事で、マリウスは胸を撫で下ろす。そんな様子を見ていたフォーダはクスクスと笑う。


 その後は穏やかな雰囲気でアベイル達が戻って来るのを待っていたが…静寂な時はあっさりと破られる。大慌てで駆けてきた、三人の報告によって–––––。


「マリウス様!」

「一大事です!」


 町の方から走って来たアベイルとカイの報告に続き、肝心な部分はリンが口にする。




「ミトの地が…現在、何者かに襲われているようです!」

 

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[あとがき]

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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