3-3 山の麓の小屋

 リンの過去を聞いた後、間も無く就寝した面々。翌朝目が覚めてからは、マリウスも身体が慣れて来たのか酷い船酔いをする事は無かった。


 潮目が良かった事とフォーダの父が手配してくれた船員達の腕が良かった事もあり、ハコンダテを出航してから一日半ほどでブルー・フォレストの港まで辿り着いた。


 既に日も沈み暗くなって来ていたため、この日はブルー・フォレストの町にある宿屋に泊まる事に––––。


 夕飯は宿の食堂で取る事にし、肉をメインで注文。それから名物のリンゴを使ったアップルパイを頼んだ。ブルー・フォレストも町が漁港から程近いため海鮮が有名なのだが…昨日の昼食から海上で釣れた魚をふんだんに食していたため、皆肉に飢えていたらしい。


「こうやって肉を食べてると、海から地上に戻って来た感があるよな」

「確かに…それにしてもこの肉、柔らかくて美味いな」


 アベイルとカイは大量に頼んだ肉を勢いよく頬張っていた。デザートのアップルパイが届くと女子陣が目をキラキラとさせながら、パイに手を付けて行く。


「うーん、甘みと酸味が丁度いいバランスで凄く美味しいです!パイ生地もサクサクして香ばしいし♪」

「もぐもぐもぐ…おいひいれす」


 お肉もそれなりの量を食べていたはずのフォーダとリンだったが、デザートは別腹と言わんばかりにアップルパイは彼女達のお腹に収まっていく。


「しかしよく細い身体によくあんなに入るもんだよなぁ」

「あ、あはは…そうですよね」


 その様子をマリウスとオズマが見つめていたが、マリウスは彼女達の食べっぷりを見ているだけで胸焼けしそうになってしまう。


 今夜はメイン・アイランド上陸記念として値段を気にせず注文したが–––––マリウスはこれから少し節約しなければと、支払いを終えてから心に決めるのであった。


・五千ゴールドを失った!(人数分の宿泊代も込みの金額。残金:二万八千ゴールド)


◆◇◆◇

 翌朝、マリウス達は町を出発する前に食料品や野営に必要なものを買い込んだ。


・三千ゴールドを失った!(残金:二万五千ゴールド)


 ついでに町にあった武器屋を覗いて見たところ、はがねで出来た武器が並んでいた。


「こいつは頑丈だし威力もあるが…いかんせん重いな。カイなら扱えそうか?」

「ああ、俺は問題なさそうだ」

「俺もこのぐらいなら扱えると思うぜ」


 鋼製の武器は重量的に扱えそうなのはカイとオズマぐらいのようだ。昨晩節約をしなければ、とマリウスは考えてはいたが…命を預ける装備をケチって危険に晒される真似はしたくない。


 カイには鋼の槍を、オズマには鋼の剣をそれぞれ買い与えた。


「マリウス様、ありがとうございます」

「ふっ…腕が鳴るぜ」


・二千ゴールドを失った!(残金:二万三千ゴールド)


「必要な物も揃えたし…それじゃあミトに向かって出発だ!」

「「「『『おおっ!』』」」」


 旅の支度を整えたマリウス達は、いよいよ町を出て南へと一歩を踏み出したのであった––––。


 船でフォーダ・アベイル・カイの馬を連れて来てはいたものの、長旅になるため無理に駆けさせる事はせず三頭に二人ずつが乗って進む事にした。


 時折、馬を休めるために休憩した後は馬を引いて歩くと言う事を繰り返した。夕暮れ時を迎える頃にはかなりの距離を進む事が出来たが、マリウス達の疲労も色濃く出ていた。


「マリウス様。もうすぐバックフェザー・マウンテンに入りますが、夜の山道は危険です。今日はここまでにして明日に備えましょう」


 リンの意見は皆や馬の疲労を考えても理に適ったもので、マリウスも賛同し頷いた。


「よし、今日はこの辺りで野営する場所を探そう–––––ん?向こうから煙が…?」

「マリウス様!向こう側から煙が立ち昇っているのが私にも見えます!」

「こんな場所に人が住んでるのか?」

「私が偵察に行って参ります」


 近くで火を使っているのが煙の存在で気付き、リンがスッと気配を消して煙が上がっている方向に向かう。


 マリウス達はリンが戻るまで少しの間待つ。数分でマリウス達の目の前にリンの気配がまだ現れ、結果を報告する。


「向こう側には小屋がありました。中に人が住んでいるようです」


 どうしたものかとマリウスは考えていたが––––突然、ピチョンと頭に水滴が落ちて来るのを感じた。どうやら雨が降り始めてしまったようだ。


「このまま野営をして風邪を引いても良くない…小屋の住人に頼んで、今夜一晩泊めてもらえないかお願いしてみよう」


 馬を連れて皆一斉に小屋の方向へと走り出す。すぐにリンが話していた建物が見えて来るが、マリウスが思っていたよりも立派で大きな––––それこそログハウスのような家だった。


 コンコン–––––––。


 代表してマリウスが入口の戸をノックしながら中に話しかける。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

「…何の用だ」


 中から男の声がした。マリウスは中の男に向かって交渉を続ける。


「旅の者です。南に向かっている途中で、今日はこの辺りで野営をしようかと思っていた所で雨に降られてしまって…どうか一晩屋根を貸していただけませんか?」

「そいつはツイてないな…いいだろう。中に入りな」


 男の声と同時に扉が開く。マリウス達は男の厚意に甘え、家の中にお邪魔した。


 部屋の中には大きな暖炉に火がべられており、暖かな空気が雨で濡れたマリウス達の身体を温めてくれる。


 その直後、小屋の住人が姿を現した時にマリウス達はとても驚く事になった––––。


「こんな所にお客さんとは珍しいな」

「雨でも降るんじゃないか?って本当に降ってきてるな…」

「今夜一晩泊める事になったから、お前らも挨拶しろ」


 マリウス達の目の前には同じような顔をした男が三人–––––三つ子かと思ってしまう程、彼らはよく似ていた。


「マブだ」

「サブだ」

「ブーツだ」


 彼らの短い自己紹介の後、皆の気持ちを代弁するかのようにフォーダが尋ねる。


「あの…皆さんはご兄弟なんですか?」

「「「違う」」」


 世の中には同じ顔の人が本人含め三人居る…そんな奇跡が目の前で起こっているのだと、マリウス達は無理やり思い込む事にした。


 連れて来た馬達も軒先のきさきに繋がせてもらい、好物のニンジンを分けてもらった。マリウス達も彼らの用意した温かいシチューをご馳走になりながら、旅の目的地について話していた。


「お前達…バックフェザー・マウンテンを通るのか?」

「ここからもう少し南下すると、山賊達の縄張りがあるらしいから気を付けな」

「最近、山賊達は長髪で凄腕の剣士を雇ったらしいぞ」

 

 マリウス達を心配して色々と情報をくれる。話を聞くと彼らは木こりをしていて、木を切って町に売りに行ったり狩りをして過ごしているらしい。


 そして明日、途中まで彼らが道案内してくれる事になった–––––。



〜第三章第四話に続く〜


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[あとがき]

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!マブ・サブ・ブーツの木こりのモチーフは、マジ・サジ・バーツの戦士三人組です。不遇な扱いを受ける彼らですが、物語の中でもあまり良い扱いはされていません…(´ºωº`)


 もし物語が面白かった・続きが気になるという方は♡や⭐︎と作品・作者のフォロー、また感想をいただけるとありがたいです( *・ω・)*_ _))

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