その背中を思い出し、傭兵は歩く
千代瀬
第1話(完)
俺はただ、依頼をこなして生きてきた。
剣を振れば金になる。だが、貴族も、町の住民も、自分のことしか考えない。守ったはずの者に感謝されるどころか、利用されることもある。そんな世の中に、嫌気が差すことは数え切れないほどあった。
それでも、生きるためには稼ぐしかない。
そう割り切って、今日も森の奥へ足を運んでいた――その時だ。
魔物の咆哮。
耳を澄ませば、子どもの悲鳴が重なる。
茂みを抜けた先に見えたのは、二人の小さな人影だった。
剣を構える少年と、震える少女。
少年は力も経験も足りないのに、必死に少女を庇って立っていた。
少女は魔法を暴発させ、傷つきながらも少年を守ろうと立ち上がろうとしていた。
愚かだ。だが、目を逸らせなかった。
その姿は、かつて仲間を守ろうと剣を握り続けた、若き日の俺を思い出させたからだ。
――剣を抜く理由は、それだけで十分だった。
閃光の一閃。
魔物の首が地に落ち、森に静寂が戻る。
「怪我はないか」
そう声をかけても、少女は言葉もなく首を振るだけ。
少年は息を切らしながら「ありがとう!」と叫んだ。
俺は首を振り、背を向ける。
「礼はいらん。生きていれば、それでいい」
歩き出しながら、ふと振り返った。
少年の必死な眼差し。少女の震える手。
あの二人はきっと、これから強くなる。
「……悪くないな」
独りごちて、再び森の奥へと歩みを進めた。
その背中を思い出し、傭兵は歩く 千代瀬 @chiyose
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます