【羞恥】百恋物語(ストーリーズ) ~すれ違いばかりの二人は恋人同士になれるでしょうか?~

QUESTION_ENGINE

プロローグ

冬物語(前日譚(プリクエル)) 「晩秋……」

第1話

 死を予感した。


 少女の右足首周辺部。一体自分に何が起こってしまったのか? 激痛が意識を遠のかせる。


「……ウウッ」


 女子バスケットボール部の練習試合中、ゴールポスト付近、練習用ユニフォーム姿の少女は体育館の床面にうずくまり、右足首を押さえていた。


 あまり痛みに叫び声をあげることすら出来なかった。


 周囲を取り囲む女子バスケットボール部の部員達は顔面蒼白になっている。

「まずい、折れている! 救急車、急いで!!」


 女子バスケットボール部のヘッドコーチは部員達に指示。学園に救急車が呼ばれた。



 『北條翔琉ほうじょう かける』は「明陽館学園高等部」の学園生。


 まだ二年生ながら女子バスケットボール部の絶対的エースであった。



 晩秋、その日の練習試合も実戦さながらの激しさだった。


 ホイッスルが体育館内に鳴り響く。翔琉の華麗なドリブル、敵チームとなった部員達を次々と躱していく。


 トリッキー且つ絶妙なタイミングのパスは敵チームを翻弄した。ボールは目まぐるしくコート内を飛び交い再び翔琉エースの元へ、敵チームは虚を突かれしまい一瞬硬直フリーズ


 世界全体がスローモーションに切り替わったかの様な静寂が訪れた。


 翔琉のスリーポイントシュート。躍動する翔琉の身体とロングポニーテール。


 ユニフォームの隙間から白い肌がチラリと顔を覗かせる。


 翔琉が放ったバスケットボールは綺麗な放物線を描きながらゴールポストに吸い込まれていった。ホイッスル。


 素早い動き、大柄な選手に当たり負けない強い身体能力フィジカル、冷静な判断力、更に正確なシュート技術。


 北條翔琉のクール&パワフルなプレースタイルは強豪校やライバル校からは「まるで蒼い炎ブルーフレアを纏っているかのようだ」と評されていた。


 だが、本人は満足していない。


「まだ、足りない。もっと……」 


 もっと早く、もっと高く、もっと正確に。もっともっと上を目指したい。


 翔琉の夢は限りなく………………遠かった。


 そんな熱い想いが、練習試合中に不幸な事故が発生させてしまった。誰も悪くなかった。


 否、無理をして敵陣に突っ込み、その勢いで場外に弾き飛ばされてしまった自身に一番の非があった。


 練習試合中、たまたま体育館の照明を交換する為に組まれていた鉄製の足場に接触、その衝撃で足場が倒壊。


 巻き込まれた北條翔琉は右足首を骨折してしまったのだ。




 救急搬送、緊急手術、そのまま入院…………そして退院数日後の体育館。


 女子バスケットボール部のチームメイト達は部活中。


 だが北條翔琉は制服姿のまま、両手には松葉杖、右足首周囲はギブスでガッチリと固定されていた。翔琉は怪我が完治するまで、練習を見学する事しか出来なくなっていた。


 翔琉は無表情、ぼんやりと女バスの練習風景を眺めている。


 そしてポツリ、独り言ひとりごとを呟いた。

「ボク、何してるの?」



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