第五話
【ルイ視点】
王都のギルドで任務の説明を受けたあと、俺はスカーレットさんに連れられて、太陽の護り手の訓練場へと向かった。 そこでは、すでにロイドさんとレピアさんが準備を始めていた。
「ルイ君、せっかくだし、うちのメンバーのスキルを見ておくといい。任務前に知っておいた方が安心だろ?」
スカーレットさんがそう言うと、ロイドさんが静かに頷いた。
◇
ロイドさんは、純白の髪を風に揺らしながら、目を閉じて立っていた。 何かを探っているような、集中した空気が漂う。
「スキル——《心眼》」
彼の声と同時に、周囲の空気が張り詰める。 魔力の流れが見えるわけでもないのに、ロイドさんはまるで見えているかのように、訓練場の隅に隠れていた訓練用の魔物人形に向かって水でできた矢を魔法を放った。
水で出来た矢が一直線に飛び、魔物人形の頭部を正確に貫いた。
「……すごい。魔力感知なしで、位置も弱点も……」
「《心眼》は、一定範囲内の敵の位置や弱点を、魔力に頼らず感じ取るスキルだ。 索敵にも、狙撃にも使える。太陽の護り手では、俺がパーティの目になる」
ロイドさんの声は静かだけど、確かな自信があった。
◇
次に、レピアさんがふわりと前に出る。 水色と桃色が混じった髪が揺れ、透けた瞳がきらきらと輝いている。
「じゃあ、次は私かな。スキル——《転送》」
彼女が手をかざすと、魔法陣が足元に展開された。 その瞬間、彼女の姿がふっと消え、次の瞬間には訓練場の反対側に現れていた。
「えっ……!?」
驚いていると、今度は空中に雷の球体が現れ、それが瞬時に別の場所へと高速で跳ねるように転送されていく。
「《転送》は、自分自身や魔法を任意の位置に移動させるスキル。 範囲攻撃や奇襲に向いてるよ。雷も、転送すればもっと面白くなるの」
レピアさんはどこか遠いところを見るような笑顔でそう言った。 その雰囲気とは裏腹に、彼女の魔法は鋭く、正確で、何より速かった。
◇
訓練場でロイドさんとレピアさんのスキルを見せてもらったあと、スカーレットさんが俺に視線を向けた。
「ルイ君のスキルも、よかったら教えてくれる?」
その言葉に、俺は少しだけ躊躇した。 でも、隠す理由もない。 だから、正直に答えた。
「……僕、実は...スキルは持っていません」
その瞬間、場の空気が一瞬だけ止まった。 ロイドさんの紫の瞳が、わずかに揺れる。 レピアさんも、桃色の瞳をぱちぱちと瞬かせていた。
「……スキル無し、なのか?」
ロイドさんが静かに尋ねる。 その声に驚きはあったけれど、責めるような色はなかった。
「はい。でも、回復魔法と強化魔法は得意です。あと、敵に対しても魔力の調整を……」
言いながら、やっぱり少しだけ不安になった。 でも、スカーレットさんがすぐに口を挟んでくれた。
「何度もいうが、実力は私が保証するよ。ルイ君の魔法は、アイスドラゴンにも通用した。信じてほしい」
その言葉に、ロイドさんは静かに頷いた。 レピアさんも、ふわりと微笑んでくれる。
「じゃあ、試してみようか。強化魔法、お願いできる?」
俺は頷き、3人に簡単な強化魔法をかけてみた。
魔法が展開されると、3人の表情が変わった。
「……これは……」 ロイドさんが腕を軽く振りながら、驚いたように呟く。
「魔力の流れが、すごく滑らかになっている……」
「わぁ、体がふわっと軽くなった気がする〜」 レピアさんがくるくると回りながら、楽しそうに笑う。
「……やっぱり、すごいな」 スカーレットさんが、誇らしげに俺を見ていた。
◇
日が落ち始め、空が赤く染まる頃。 俺たちは、北西の山岳地帯へ向けて馬車に乗り込んだ。
馬車がゆっくりと街道に乗ると、ロイドさんが立ち上がり、前方を見据えた。
車輪の音が石畳を鳴らし、王都の灯火が少しずつ遠ざかっていく。
「……向かうぞ。魔将が待っている」
その声に、俺は思わず背筋を伸ばして返事をした。
「はい!ロイドさん!」
すると、ロイドさんがちらりとこちらを振り返り、少しだけ口元を緩めた。
「“さん”は要らない。仲間だろ、ルイ」
「……あ、はい。ロイド……さん……じゃなくて、ロイド」
少し照れながら言い直すと、ロイドは満足げに頷き、スカーレットさんとレピアさんの方へ視線を向けた。
二人は、何も言わずに静かにうなずいた。
もしかすると、今日一日だけかもしれない。でも、これから始まる戦いに向けて、俺たちは一つになったのだ。
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紹介回なので短めです。
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