事件の予兆

 

第1話

女1「息子はどうして死ななければならなかったの?」


女2「……」


女1「大学だって決まっていたのよ。私の息子だけじゃない。あと26人も人が死んだのよ」


女2「……」


女1「あなたのせいで私の息子は死んだの。あなたがちゃんと教育していればこんなことにはならなかった」


女2「……私の教育のどこがダメだったって言うんですか! 悩みがあれば相談に乗ったし、銃だって買ってあげてない。それに息子は暴力的なゲームもしてないし、そんな映画も見ていなかった。息子がいない時は、部屋を隅々まで確認して銃がないか探したし、日記だって読みました。でも、そんな予兆はどこにも見られなかった。学校の創作の授業でも暴力的な小説も書いていないし、何の問題も見られなかったし、先生に呼び出されたことなんて一度もない。友達だって事件の前日まで普通だったとしか言わない。私と息子の友達も誰も知らなかったSNSのアカウントにも愚痴ひとつ書かれていなかった。それに銃を買ったのだって息子の18歳の誕生日、事件の当日、通学途中なんですよ。これでどう気づけって言うんですか? これ以上、私にどうしろって言うんですか?」


女1「そこまで熱心に教育したってことは本当は何か予兆があったんじゃないの?」


女2「私はただ、コロンバン事件の犯人の母親の手記を読んでちゃんと子どもを育てようと思っただけですよ。……そんなに私のことを責め立てるなら1つ教えて下さい。私の教育のどこに問題があったって言うんですか? 私がどんなに愛情深く育てても、対面でも日記でもSNSでも本音を打ち明けてくれない、心の内をひた隠しにして普通の子を演じ続ける息子とどう接すれば良かったんですか? ……知ってるなら教えて下さいよ」

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事件の予兆   @hanashiro_himeka

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