忘れないで

一番星

少女の独り言 「金」

注意

「金」を読んだ後に読むことを推奨します



***

「ご苦労様」


 ひらりと私の指先に紫色の蝶がとまる。


「次は誰を連れてきてくれるのかね」


 そう、蝶に問いかけると、蝶は指を離れて再び何処かへ飛んでいってしまう。


「…で、貴方はどうだったの?そこまで話し込んでいる様には見えなかったけど」


 導かれた魂に語りかける


ーそうね。言いたいことを全部言えた訳でもなければ特に何かをするってことも出来なかった。…けど、あの娘が笑っているならいいなかってー


 私はその言葉に静かに頷く。


「きっと、大丈夫よ。親子って切っても切れない関係…だからこそ、伝わる何かがある…。でもね、何も出来なかった訳ではないわよ。あの娘は貴方に会ったことで何か大切なものを見つけられるようになった…。そんな気がする」


 魂が微かに微笑んだ気がした


ーそう…かしら?…そうだといいわ…。何かと苦労かけてるから。あの娘とあの人にはー


 大切なものを遺して先に逝ってしまう。それは本人にとっても遺された人にとっても残酷なこと。


 大切な人を失ったら周りが見えなくなる。差し伸べられた手さえも。


 だから、だからこそ、再び過ちを繰り返さないように。私のような人が出ないように。私は虹の麓にいる。


「そろそろ、時間ね。お迎えが来たわ」


ーありがとう。あの娘に会わせてくれてー


「いいえ、これが私のやるべきことですから」


 魂は虹の架け橋を渡って消えていった。


 金田美央。


 貴方は母親に再び会って、己の志と周りからの支えを見いだした。


 これからも、困難はあるでしょう。けれど、大丈夫。きっと立ち向かえる。


「…金メダル取れるといいわね」


 そっと、本を閉じると表紙には「金」という文字が浮かんだ。金メダルを志すあの娘にとってぴったりな題名。


 本棚にそっと、その本を並べる。背表紙を撫でながら私は呟く。


「早く…元凶アイツをなんとかしないとね…」


 あと、あの人も見つけなければ。


 このままでは、増えてしまう。


 大切なものを失う人々が。


 増えてしまう。


 己の欲に溺れて唆される人が。


 だからこそ、早く見つけなければ…。


ーあの人をー

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