「吊るされる影」
人一
「吊るされる影」
「ねぇ、ママ!お天気を晴れにしたいなら、てるてる坊主を作ればいいって本当?」
「えぇ、そうよ。」
そう言うと息子は、「明日晴れますように~」と言いながらテッシュで簡単なてるてる坊主を作った。
その光景の微笑ましさに思わず笑ってしまう。
窓際に吊るしてあげた翌日、晴れることはなく雨が降っていた。
「ねぇ、ママ……てるてる坊主さん作ったのに晴れなかったよ……」
「そうねぇ。今日はお天気さんの方が強かったみたいね。」
落ち込む子を見るのは辛いが、こればかりはどうしようもない。
「あっ!じゃあママ、てるてる坊主さんをどんどん大きくするのはどうかな?」
「てるてる坊主さんを大きく作る?いいんじゃないの。そうすればきっとてるてる坊主さんも力を沢山使ってくれるかもね。」
さっきまでとは打って代わり、跳ねて喜ぶ息子を前に顔が綻んでいる気がする。
それから息子は翌日が雨予報だと、きまっててるてる坊主を作り窓辺に吊るした。
その結果は、晴れたり雨だったり、はたまた曇りだったりと様々だった。
その度に一喜一憂する息子を見るのが、密かな楽しみになっていた。
息子がてるてる坊主を作る、その度にサイズはどんどんと大きくなっていた。
初めは子供の手のひらサイズだったはずだが、気づけば私の太ももくらいの高さになっていた。
明日は遠足があり、絶対に晴れにしたい息子は腰程の大きさのてるてる坊主を作り見せてきた。
「もうずいぶんと、大きなてるてる坊主さんね。」
「うん!明日は絶対に晴れてほしいから、いっぱい力を込めちゃった!」
息子の頭を撫でてあげ、てるてる坊主を吊るした。
翌日の天気は予報は変わらず大雨だった。
幸い遠足は雨天順延になったが、息子は役目を果たさなかったてるてる坊主をジッと見ていた。
数日経った。延期されていた遠足の前日。
「ねぇ、ママ~この白いバスタオルてるてる坊主さんを作るのに使ってもいいかな~?」
隣の部屋から聞こえてきたが、特に視線を向けることもなく答えた。
「いいけど、明日ちゃんと片付けるのよ。」
「はーい!」
しばらく物音がしていたが、いつからか静かになっていた。
――明日に備えてもう寝たんだろうか。
そんなことを考えながら、私も眠りについた。
翌朝、カーテンを開けると眩しい朝日が差し込んできた。
どうやら今回は息子作のビックてるてる坊主が、役目を果たしたようだ。
浮き足立って息子を起こしに部屋を訪れるも、ベッドにいるはずの姿が無かった。
部屋を見回し窓辺に視線をやると……
バスタオル製の一際大きなてるてる坊主がぶら下がり、朝日に照らされゆっくりと揺れていた。
「吊るされる影」 人一 @hitoHito93
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