ステーキ弁当が美味しくないという愚痴

日奉 奏

第1話

「……おいしくない」

 私は今日、どうしてもお腹が減ったので自分のアパートに弁当を運んでもらった。

 いわゆる、デリバリーサービスというやつだ。今日食べるのは、ステーキ弁当。

 スマホの『ステーキ専門店』という文字と共に並んだ、おしゃれなロゴマーク。

 私はその店の名前に期待を込め、頼んだんだが……


「おいしくない……」

 お肉はぱっさぱさだし、ソースはどこか甘ったるい。どうしても、私はこれを好きになれそうにない。

 さてどうするか。私はこの商品に、中々の金額を払ってしまっている。

 私は激怒した。必ずこのひどいステーキ専門店をぶち壊さなきゃいけないと。


 そんな決意をして私は数分後、とりあえずスマホで店について調べていた。

 店の写真はどこか奇麗で、商品の写真もちゃんと奇麗だ。

「……うーん?」

 私は商品の写真をじっくりと見てみた。赤いケースに入っているのは、肉と米。

 付け合わせとして黒と茶色の何かが振りかけられているブロッコリーが映っている。

 さてどうするか。ここにヒントはあるのだろうか……?

「……とりあえず、他にも情報見るか」

 私はその結果、いくつかの店の情報を手に入れることに成功した。


 この店はちゃんとした店舗を持たない、専門的に言うなら『ゴーストレストラン』であること。

 名目上の住所は駅の近くにあること。そして、この店ができたのは結構最近であること。

 まぁデリバリーサービス自体が最近できたものだから、そりゃそうか。


「……えー?」

 どうしようもなくないか?これ。まぁ、どうせこんな店潰れるだろう。

 そう思って、私は自分の気持ちを抑えようとした。しっかし、世も末だなぁ。

 こんな味で専門店を名乗れるだなんて。憎らしい目で、私はステーキ弁当の箱を見る。


「うーん」

 まぁでも、ブロッコリーの付け合わせは結構おいしかったんだよなぁ。いい意味で、食べたことない味だった。

 どんなスパイスを使ってるんだろう?もうブロッコリー専門店に名前変えたらどうなんだ?

 そう考えつつ、私はどこか物足りなさを感じる。

「……もうちょっと頼んでみるか」


 私はそう大きな独り言を呟いて、またデリバリーアプリを見直す。専門店はもうこりごりだ。

 適当に店を選んで、私はそこの弁当の写真を見る。カレー弁当だ。

 黄色いカレーに、美味しそうなツヤツヤのお米。そして、黒と茶色のブロッコリー……え?

「……いや、ちょっと待って?」

 いやいや、このブロッコリーさっき見たあれと同じでは?いやでも、これそんな有名な商品なのか?

 えーっと、どうすれば……いや、待てよ。


「……これ、もしかして!」

 私はそのお店の情報をスマホを操作して開く。すると、そこには……こういう情報が乗っていた。


 この店はちゃんとした店舗を持たない、専門的に言うなら『ゴーストレストラン』であること。

 名目上の住所は駅の近くにあること。そして、その駅の近くというのは……さっきのステーキ店と、同じ場所であること。


「……してやられたーっ!!!」

 そう、私はこの店に仕込まれた陰謀に気づいてしまった。

 ステーキ店とカレー店は専門店と名前を付けておいて、実際は専門店でも何でもなかったのだ。

 だからステーキもたいして美味しくなかった。専門店どころじゃない、普通のファミレスより美味しくなかった。


「……くぅ!」

 私はそのまま、イラストレーターの公式サイトを見てみる。ロゴマークの依頼は……1万円。

 1万円でかなりそれっぽいものが作られるらしい。ちなみに、ステーキ弁当の値段は1000円くらい。

 えーっと、つまり……


「……あー!もう!!!自分でステーキ作ってやる!」

 悔しい!悔しすぎる!日本全国の専門店に謝りやがれ!そう思いながら、私はデリバリーアプリのブロッコリーの写真を見た。

「……ブロッコリーは美味しいのにな」

 本当、この才能を生かせよ……そう思った、お昼時であった。

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ステーキ弁当が美味しくないという愚痴 日奉 奏 @sniperarihito

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