第47話 魔法少女ルーちゃんと宇宙間最終小戦争 16
――。
「うん。言われなくても」
ゲトガーから意識をバトンタッチし、私は自分の脳から爪の先を抜いた。
「助かったよ。ありがとうゲトガー。私、君に助けられてばっかりだ」
笑顔と泣き顔が混ざったような不細工な表情を浮かべながら、私は自分の首にいるゲトガーを優しく撫でた。
「……そんなことねぇよ」
(――それはきっと、お互い様だ)
私は、まだ椎名さんの息があることを確認。彼女の耳のイヤホンを使い、博士に救助を要請した。今ならまだ、椎名さんも委員長も、助かるかもしれない。
崖を睨み、私は強化された体でそこを上り始める。
「ルー。言っておくが、まだ体にブリギオルはいるぞ。先に、こいつをなんとかしないと」
「そのつもり」
そう呟いたのと、私が崖の上に姿を現したのが同時だった。私の視線の先には、椎名さん愛用の刀が転がっている。
「ああ。それで始末を」
「うん。でも、そうだけど、そうじゃない」
「どういう……」
道路で転がる日本刀を手にする。私はそれを使い、左肩に付いているブリギオルの
「おい。ブリギオル、聞いてるか」
私が問いかけると、その趣味の悪い人形は言葉を発した。
「……言っておくが、寄生紋を破壊しつくしても、お前の体から私は消えないぞ?」
私がなにかを言う前に、ブリギオルは言葉を重ねてきた。
「私の破片は、お前の中に散らばり、体の至る場所に縫合されている。だから、寄生紋を壊したところで、意味はない。私は、お前の体の中で復活の時を待つ。そして、何度でもお前を殺し、ゲトガーを取り戻してやる」
「あっそ」
冷たく言い放ち、私は日本刀でその人形に一閃。
ブリギオルが叫び声をあげるが、無視をする。私は、半分になったブリギオルの寄生紋を手に取り。
……そのまま、自分の口とゲトガーの口に突っ込んだ。
「ルー!? そんなことをしたら、またブリギオルが復活――」
「それでいいんだよ」
ブリギオルを飲み込みながら、私は冷静に言った。
「何度復活しても、何度生まれ変わっても、何度体を乗っ取られても。私がお前を、二倍殺して二倍食らってやるよ、ブリギオル」
私は、私の中に散在しているであろうブリギオルに向かって一息で言う。
「何度でも相手になってやる。何度でも痛い目をみせてやる。何度でも食らってやる。お前に、ゲトガーはやらない、絶対に。ゲトガーは私のものだ。道具という意味で、じゃない。友達という意味で、だ。お前よりも、私の方がゲトガーのことを好きだ。だから、ゲトガーはお前に渡さない」
「……ルー」
「それでも」
そこで、私は咳き込む。一日に二度の変身と、ブリギオルに体を乗っ取られたことが響いているのだろう。
「それでもお前がゲトガーのことを好きなら、何度でも私に立ち向かってこい。何度でも、私が相手になってやる。ゲトガーのことを諦めるのなら、潔く私に吸収されて、姿を消せ」
ブリギオルに言いたいことを全て言ってから、私は大きく息を吐いた。
ブリギオルから返答はなかったから、やつがまだ私の中にいるのか、それとも消えてしまったのかは、もうわからなかった。でも、もう、どっちでもいい。
視界がふらつき、私はその場に崩れ落ちた。
仰向けで星空を見上げていると、ゲトガーがこう言った。
「お前は本当、めちゃくちゃするな。なにも、飲み込むことはなかっただろう」
「いや。ああでも言わないと、ブリギオルはめちゃくちゃしつこそうだと思ったから。でも、さっき言ったことは全部本心だから」
「……ああ」
しばらく上を見ていると、次第に夜が狭まっていくのがわかった。私の瞼が、勝手に降りてきているのだ。
遠くから、誰かの頼りない声が聞こえてくる。
「大丈夫ですかぁー? ぶへっ」
目の端に映ったのは、転んで手に持った医療キットを道路にぶちまける春木博士の姿だった。いや、あなたが大丈夫か?
「私はいいので、椎名、さん、を……」
そこで、私の意識は急速に薄れていった。
まあ、とにかく。本当に色々とあったのだが。
地球とデルデドの宇宙間小戦争は。
地球の勝利で幕を閉じたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます