第42話 魔法少女ルーちゃんと宇宙間最終小戦争 ⑪


 私は大量の疑問符を頭に浮かべながら、針のエイリアンから視線をはなさずに言う。


「目的は?」

「ブリギオル様を失った今、あなたのような動ける存在が私たちには必要なのです。侵略の際、あなたは大きな戦力となることでしょう」


 これはなにかの作戦なのだろうか? 適当な話をして時間を稼いでいる? いや、それになんの意味がある? ララガガルドは、あと一刺しで私の儚い命を摘み取ることができる。


 では、こいつは、本心で私を勧誘しているとでもいうのだろうか。

 だが、時間が経つことに関してはこちらにとっては歓迎だ。


「なぜ、ゲトガーを捨てないといけないの?」

 私は、ララガガルドの話に乗ることにした。

「私たちのためでも、あなたたちのためでもあるからです」

 そう前置きした上で、彼はつらつらと言葉を並べ立て始める。


「あなたの体にゲトガー以上の性能の個体が寄生すれば、あなたは今以上に自分の力を発揮でき、我が軍の役に立っていただくことができます」

「私のメリットは?」

「てっとり早く、魔法少女になることができます」


『魔法少女』。


 その言葉で、私と、私の中のゲトガーの背筋が伸びた感覚があった。


「あなたが地球の魔法少女という存在に憧れていることも、現在のゲトガーさんの力が足りず、完全には魔法少女になりきれないことも知っています。でも、考えてみてもください」


 ララガガルドは人差し指を立てて説明を続ける。

「健康な個体があなたに寄生すれば、あなたの全身を魔法少女の姿に変えることなど造作もないのですよ。変身能力はなにも、ゲトガーさん固有のものではないのですからね」

「……ルー」

 首から聞こえたゲトガーの声は、私の顔色を窺うかのような、気弱なものだった。


 ……そうだ。今、私が完全な魔法少女になることができないのは、ゲトガーの力が足りないからなのだ。ブリギオルがしたみたいに、一度ゲトガーを私の体から引きはがし、別のエイリアンを寄生させれば、私はすぐにでも完全な魔法少女になることができるのだろう。


 ゲトガーを捨てる。

 それだけ。

 たったそれだけのことで。

 私は。


 ……かねてからの悲願であった、魔法少女になることができるのだ。


「目の色が変わりましたね」

 ララガガルドが、楽しそうに息を吐いた。


「おまけに、寄生後もあなたの主導権を奪わないことを約束しましょう。現在のルドヴィグさんのような状況ですね。理由は、あなたの強みを活かすため。あなたの突飛な思考と行動で……魔法少女の姿でどうぞ戦場を駆け回ってください。どうです? 悪い話ではないでしょう?」

 無言の私に向かって、ララガガルドは口を止めずに話し続ける。


「別に、あなたが裏切るかもしれないという心配はしていません。あなたの目的は、魔法少女になることなのですよね? 完全な魔法少女になったあなたは恐らく、私たちから興味を失う。その力を使って、私たちに反逆するということもないでしょう」

「私が協力するという保証もないよね?」

「そのときはそのときです」

 きっぱりと言い放つララガガルド。


「体の主導権の切り替えは、寄生をしている我々が行っています。あなたが協力をしないのならば、あなたに一生主導権を渡さない。それだけのことです」


 まるで、私がする質問を予め予見しているかのように、ララガガルドの返答は速い。


「最初から私の体を同胞に寄生させて奪い取る算段でしょ?」

「あなたのトチ狂った頭は評価していても、体には才を見出しておりません。そんなまわりくどいことをするくらいなら、普通に殺します。あなたの命は今、私の手の平の上にあることをお忘れですか?」

「……」


 ララガガルドの顔の針が更に近づき、私の頬に突き刺さる。顔の皮が破れ、薄っすらと丸い血液が顔の外で膨らんだ。


 ……驚いた。どうやらこいつは、本当に私のことを評価してくれているようだ。


 魔法少女になる方法は、今のところ二つ。


 一つは、エイリアンを食らい、ゲトガーの力を取り戻すこと。

 もう一つは、ゲトガーから他のエイリアンに乗り換えること。それだけ。


「……私は」


 そう。

 私は。

 魔法少女になるためなら……。


「ルー……」

(――まずい。こいつは魔法少女になるためなら、どんな手段も厭わない。このままだとルーが、俺以外のエイリアンに体を受け渡すことになってしまう)


「……?」

(――いや、なにがまずいんだ? ルーが魔法少女になることができるのなら、それは本望じゃないか。それなら俺は、捨てられてもいい。でも、俺は……。こいつの、こいつが、完璧な魔法少女になった姿を、この目で見てみたい。しかし、ルーがそれを望まないなら、俺は潔く……。……消えよう)


「答えは出ましたか? ウルウさん」


 ララガガルドの声に、私は俯いていた顔をゆっくりと上げた。


 私の中に、ゲトガーとの思い出が溢れかえる。


 初めはゲトガーが私を半殺しにし、今度は私が、自分の脳をいじってゲトガーを虐めた。思えば、最悪の出会いだった。


 エイリアンを殺したり、エイリアンに殺されかけたり、ご飯やおやつをわけあったり、軽口を叩き合ったり……。


 今ではゲトガーは、初めてできた私の唯一の友達だ。


「私は」

 私は……。

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