第16話 新米魔法少女ルーちゃんと愉快な仲間たち ⑤


 しばらくすると、お盆にお茶とお菓子と、そしてなぜかアイスペールとガーゼを乗せた椎名さんがやってきた。


「紅茶が切れちゃっててね。お茶で悪いけど」

「ありがとうございます」


 私は、椎名さんから緑茶が入った湯呑を受け取った。

 香りを楽しみながら、一口。

 恐らく、急須で淹れられたであろうそのお茶は、私の体を内から温めてくれた。


「ゲトガーくんは、なにかを食べられるのかな?」

 椎名さんの問いに、ゲトガーは。


「俺は、このカスガールが摂取した栄養で生きていくことができる。が、それとは別に恐らく、首から物を食って直接栄養を摂ることもできるはずだ」

「ふぅん。なら、はい」


 椎名さんは盆に乗っていたクッキーを手で摘まみ、私の首、もとい、ゲトガーの口にそれを押し付けた。


「クッキーは食べられるかな?」

「さぁな」

 言いながらも、ゲトガーは口を開けてそのクッキーを口に招き入れた。

 一瞬、椎名さんの指を食いちぎってしまうのではないかと思ったが、そんなことはなかった。


 ゲトガーは、私の首の牙を動かしモゴモゴとクッキーを咀嚼している。

 なんだか、首の辺りが変な気分。


「なかなか美味いな」

「そうかい? それはよかった」

「俺、この姉ちゃんに寄生したかったわ」

「ふふ、光栄だね」


「えー。駄目だよ。ゲトガーは私のものなんだから」

「利用してるだけだろ、アホウが」


「利用、とは?」

 春木博士が、横目で私に視線を飛ばす。


「実は私、魔法少女になるために生きているんですけど」

「そうですかぁ」

 博士は、別段興味なさそうに頷いた。


「ゲトガーの力があれば、私、一瞬だけ魔法少女になることができるんです。でも、今のゲトガーは力が弱くって、全身魔法少女に変身することはできないんですよ」

「お前のせいでな」


「なるほど。彼らの変身能力を利用している、ということですかぁ」

「はい。それで、私は魔法少女になるため、エイリアンを食べなくちゃいけないんです。エイリアンを食べると、ゲトガーの力が増すみたいなので」


 私は、ポケットからルドヴィグの寄生紋パロテクトの欠片を取り出した。


「なるほどですねぇ。なら、うるうさんはエイリアンと戦う覚悟がおありなのですね?」

「ありまくります。食いまくりたいです。はやく魔法少女になりたいので」


「これは頼もしいですねぇ」

 博士は、口元に手の甲を添えて微笑んだ。


「椎名さん。これは、彼女に手伝ってもらってもいいかもですねぇ」

 博士の言葉に、椎名さんが頷いた。

「ええ、博士。エイリアンと共生している彼女の力は、彼らと戦うことになった際、重要となってくるでしょうから」


「彼らって、もしかして」

「ええ。エイリアンですねぇ」

 言ってから博士は、緑茶を飲みすぐにむせた。

 その瞬間、椎名さんが盆に乗ったアイスペールから氷を取り出し、博士に手渡した。


「すみませんねぇ、椎名さん」

 博士はそれを口に入れ、再びお茶で流し込む。そのためのアイスペールなの?


「では、重要な話をしましょうかぁ。結論から言うと、もうすぐ地球はデルデド星人に侵略され、人類は滅びるんですねぇ」


「……はい?」


 あまりにも唐突に発されたその言葉に、一瞬、私の脳は考えることを放棄してしまった。


「滅びる、んですか?」

「まぁ、滅びますねぇ」


 滅びる?

 地球が? 人類が?


 なんで?

 ……?


 ぶわりと。私の全身から嫌な汗が吹き出た。

 いや、駄目でしょ。


 なんでだか知らないけれど、駄目だよ、そんなの。


 だって、だって……。

 地球が、世界が、人類が滅んじゃったら……。


 私は、俯いて拳を強く握り込む。


「……ですか」

「はいぃ?」


「人類が滅びたら私が魔法少女になれないじゃないですか!」


 叫び、私は博士の机を思い切り拳で叩いた。資料が崩れ、微かにほこりが舞う。


 静まり返るラボ。春木博士はズレた眼鏡の位置を直して。


「だ、大丈夫ですよぉ、閏さん。対抗する手段は幾つかありますからねぇ」


 彼女の言葉を聞き、私の顔に一瞬にして笑顔が咲いた。

「なーんだ。それならそうと、はやく言ってくださいよー」


(――コイツ。怒らせるとマジでなにしでかすかわからんぞ)


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