東風が誘う来世まで
征乃 / Yukino
プロローグ
過去は飾られる。そんな勘違いを人々はしてしまう。俺はそれを認めたくなかった。過去が美しいのではなく、その美しさを認識できていなかっただけ。そう、思っていた。
それなのに、彼女との思い出を時折懐かしんでしまう自分が嫌いだ。あの時は本当に、ただただ日々を生きているだけだった。過ごしているだけだった。何が自分を生かしているのか、何が自分にとって最も大切なのか。そんなことさえ見えずに息をしていた。
夕暮れの墓地へ続く道は、まるで日本神話の黄泉比良坂のように果てしなく遠い。そして冷たい。寂しい。それは何かを失った者ばかりが訪れる場所だからだろうか。
何も守れず、ただ彼女を死なせただけの俺が、『今』を謳歌している話なんて聞かせていいのかはわからない。それでも、俺はこの古びた縦長の石を少しでも長く見守っていたかった。
茜…オレンジ色の空は、瑠璃色を染め上げ、やがて闇へと変わる。どうかこの時間が長く、永く、伸びて欲しい。
生焼けの空の下で、俺は彼女に懺悔をした。
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