第9話 人生の新たなステージ

大学の卒業式、私は袴を着付けて綺麗に髪をセットして貰った。

珍しく父と母揃って卒業式に参加してくれた。

校門の前で家族三人で写真を撮っていると、後輩と思われる人たちから、杏梨さん卒業おめでとうございます!一緒に写真撮ってくださいと何度も声がかかり、両親は杏梨ってこんなに人気者だったんだと驚いていたが、一番驚いたのは私の方だった。

最近はそこまで声をかけられていなかったのに、最後となると皆勇気を出して話しかけてくれるんだなと正直な所嬉しかった。

すると、紗綾と蓮斗がやってきた。遠くから見てたけど杏梨人気者過ぎると紗綾は言い笑った。

私たちとも写真撮ろうよ。

もちろんと言い三人で写真を撮った。レオは仕事で来れないって残念がってた。と蓮斗は言い、でも夜四人で飲むの楽しみにしてたよ。

 両親と別れ、私たちは大学内を歩いた。ここの教室でこんな授業したよね、とか学食のこの席好きだったとか他愛もない話しに花を咲かせた。

 話しは戻るが帰国してすぐは少しバタバタしていた。

青空がアイドル引退のニュースも流れ世間に大きな衝撃が走った。

私はと言うと警察から直接電話があり、藤田社長の件で事情聴取を一度受けたが、それっきり何も音沙汰はなかった。

両親にも勘づかれなかったのは幸いだった。

藤田社長も鈴木秘書も裁判真っ只中だが、服役することになるのは目に見えている。

鈴木秘書は洗脳されていたから罪が軽くなるのかは分からないが。

ドル隊の運営していた会社は韓国の大手芸能事務所へ売却されたそうだ。

次々と新しいニュースが賑わう中で青空の言っていた通り、ドル隊の存在が明るみに出ることは今のところ無さそうで安心した。調査の中で、藤田は自分の子供を沢山作り、アイドル会社を設立したかったと口にしているようだった。まさかそんな目的のために、多くの女性を犯し苦しめていたとは信じ難かった。被害に遭った女性のサポートも会社側で進めているようでそこは少し安心した。


青空へ先ほど撮った袴の写真を送ると、似合う!可愛すぎる!俺も卒業式駆け付けたかったと連絡が入っていた。

夜は私が働いていたれすとらんへ皆で向かった。

岩田シェフは杏梨ちゃん、卒業本当におめでとう!こんな素敵な日にここを選んでくれて嬉しいよと笑顔で迎えてくれた。今日は一段と腕によりをかけて作るねと嬉しそうだ。

ありがとうございます!お客さんとしてお食事するのは始めてなので楽しみですと私自身もワクワクしていた。

そしてフロアには竹内くんも来ていた。

杏梨さん、ご卒業おめでとうございます!お久しぶりですね。袴姿素敵です。とにっこり微笑んだ。

竹内くん!久しぶり。突然辞めて連絡できてなくてごめん。今度ご飯行こう!と久しぶりの再会を喜んだ。

紗綾は竹内くんを見て、あの人めっちゃ素敵じゃん。今度紹介してよと小声で耳打ちをしてきた。

勿論!彼なら礼儀正しいし、親切だし安心して紹介できるよと親指でグーサインを出した。

ビールで乾杯をし、話題は私と青空の旅行の話になった。

写真を見せながらここはどこでと説明していると、そういえば二人で撮った写真はないの?と紗綾が聞いた。

相手はアイドルだから私からも言わなかったし、青空からも撮ろうとは言われなかった。

しかし青空が単体で私を撮ってくれている写真が何枚かあり、私も青空を撮っている写真があったので、それを見せた。

レオと蓮斗、紗綾は顔を見合わせにっこり笑い、蓮斗は愛だねーと呟いた。

好きな人に撮られてるのが伝わってくると紗綾は嬉しそうに画像を眺めている。

二人って付き合ってるんでしょ?と紗綾は興味津々に聞いてきた。

私はどう答えるべきか悩んだが、今は付き合ってないよと答えた。

レオも気になっていたのか、青空さんがアイドル辞めたら付き合うとか?

まあ、そんな感じかなと少し照れている自分が恥ずかしかった。

杏梨がそんな恥ずかしそうにしてるの初めて見た!恋人契約みたいじゃん!何それ素敵とはしゃぐ。

食事を楽しみ、デザートはシェフ特製の大きなケーキが出てきた。

今日はスペシャルな日だから、これは俺からのみんなへのプレゼントだよ!

ケーキには卒業おめでとうと綺麗にメッセージが書かれていた。

岩田シェフありがとうございます!嬉しすぎます。

みんなで写真を撮り、大学卒業してもまたこうして定期的に集まろうねと話をした。

家に戻り、大学生活色々とあったけど、良い人生経験を沢山できたなと思った。

皆んなに出会えてよかった。社会人不安すぎるけど、一生懸命頑張ろうと今日の幸せに浸りながら、眠りについた。





時は過ぎてあっという間に十月になった。

段々と肌寒くなってきて、葉っぱも色づきはじめている。

私はと言うと、新入社員として入社した父の会社は思ったよりも覚えることが多く、毎日疲れきっては寝ての繰り返しだった。

アパレル知識ゼロだったこともあり、競合調査は勿論、ファッショントレンドも毎日チェックし、上司の仕事を見て覚え、業界用語も頭に入れなければならなかった。

バイヤーはいくつか国によって部署が別れていて、私は韓国の担当だった。

実際に現地に行き、人気の出そうなブランドやファッションアイテムを買い付けて売るのは、先見の目が必要になってくる。

今まで使っていなかった頭をフル稼働させるのは、しんどいことも多いが、やりがいもあり楽しかった。

あれだけ嫌がっていたSNSだが、自分で買い付けて着用した洋服がまたたく間に売れていくのを見るのは、思いの外楽しくて、ほぼ毎日更新するようになっていた。

青空もSNSを見ていてくれているようで、今日のファッション素敵だねなどとマメに連絡をしてくれていた。

そして十月十三日青空のアイドル卒業の日。私は動画配信でリアルタイムで卒コンを見ていた。

ファンもメンバーも青空をあたたかく見送る姿に感動して涙が零れた。

彼はこんなにも沢山の人に愛されているんだ。本当に凄い人だなと思いながらも、私も頑張らなきゃと背中をおされた気持ちになった。

そして、1週間後、旅行ぶりとなる青空との再開の日。

私はレオに教えて貰った芸能人御用達の和食屋さんをおさえた。

先に部屋に案内されて待っていると、個室の扉が開き青空が久しぶりと笑顔でやってきた。

半年以上振りだよね!なんか何年も会ってなかったみたいな感覚だよ。

俺も。一日一日が濃すぎて長く感じてた。

取り敢えず頼もうか。とビールで乾杯をし、最近の私の仕事の話や青空のコンサートの話で盛り上がった。

もう一般人ってこと?と私が聞くと、そうなるね!と青空は笑った。

でもまだ辞めたばかりだから一応外出するときは気を付けてるけど。

そうだよね。卒コン動画配信で見てたけど、みんなあたたかくて泣いちゃった。

ファンは勿論だけどメンバーの人達にすごく愛されてたんだねと言うと、レオ恥ずかしそうにまあ、そうだねと微笑んだ。

そしてデザートになり、お店側でケーキを用意して貰っていた。

青空卒業おめでとうの文字を添えて。

青空は嬉しそうに、まじで杏梨ありがとうと喜んだ。

ケーキと写真撮ってあげるよと私がスマホを向けると、え、なんで、一緒に撮ろうよ!と青空はスマホ貸してと私と一緒に写真を撮ってくれた。

これからは気にせず、思い出いっぱい作ろうと嬉しそうにする青空に、うん、そうだね。と私も嬉しくなった。

 杏梨気持ち変わってないよね?と青空は恐る恐る私に聞いた。

付き合うってこと?

うん、そう。

勿論!今日をずっと待ってたよ。

それを聞いた青空はとても嬉しそうに、俺もと口にした。

青空は今日はこの後行きたいところがあるんだと呟いた。

お会計を済ませて青空が呼んだタクシーに乗ると、着いたのは東京にあるブルガリホテルだった。

エントランスから高級感漂う雰囲気に、少し緊張しながら青空に着いていく。

既にチェックインを済ませていたようでそのまま部屋に向かい扉を開けた。

そこは東京の夜景が一望できるガラス張りの綺麗なお部屋だった。

私は凄く素敵と景色にうっとりした。

すると青空はどこからか用意していたであろうバラの花束を膝まづき私に差しだした。

ベタだけど、結婚を前提にお付き合いしてください。俺は杏梨しかもういないと思ってます。と真剣な眼差しで私を見つめる。

私は照れながらも私もこの先青空より好きな人は現れないと思う。

よろしくお願いします。と花束を受け取った。

こんな素敵な場所、用意してくれてありがとう。凄くうれいし、びっくりしちゃった。

私が青空の卒業祝いする日だったのに。と笑った。

半年振りに会うからさ、気持ち確かめたくてちゃんとした場所で伝えたかったの。と青空は言った。

私たちはそのまま熱いキスをした。

私の目からは涙が零れた。幸せで涙を流したのは人生で初めてだ。

こんなに心から好きだと思える人に出会えたことが私の中では言葉にできないくらい幸せで、心が満たせれている感覚だった。

青空は優しく私を抱き締めて、もう離さないよと口にした。

私も青空をぎゅっと抱きしめ、私もと微笑んだ。

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