俺は第一王子だが、無能弟が転生して有能すぎて立場がない件

@Shibaraku_shiba

【第一話】六男は王家の恥さらし(だと思っていた)

俺の名はアレクシオン・フォン・ガルディア。

 ガルディア王国が誇る、第一王子にして王位継承権第一位。

 すなわち俺こそが、未来の王である。


 ……の、はずだった。


 なぜ「はずだった」と過去形を使ったか。

 それは俺の末弟――第六王子、ルクスの存在に他ならない。


 あいつは王家にありながら、剣は振れば自分の足を切り、魔法は詠唱すれば爆発して自爆、学問は文字を逆さに読んで「王国史」に「国史王」とか赤字をもらう。


 要するに、筋金入りの無能だったのだ。


「第一王子殿下! 本日の剣術訓練、ルクス殿下がまた剣を逆さに握られて……」

「ああ、わかった。もう慣れた」


 側近からの報告に、俺は鼻で笑う。

 またかよ。毎度毎度、王族の名誉を地に落とすことに余念がないな。


 父上である国王陛下も母上も、とうにルクスを諦めている。

 兄弟たちも皆、「六男は王家の恥さらし」だと遠巻きに笑っていた。

 だから俺も、安心していたのだ。


 第一王子としての俺の立場は盤石だ、と。

 あの無能が存在する限り、俺が比べられて不利になることは決してない、と。


 ……その慢心こそが、後に俺を地獄に叩き落とすのだが、この時の俺はまだ知らなかった。



---



 事件は、十七歳の春に起きた。


 城下に突如として現れた魔物の群れ。

 これが王都防衛戦のきっかけとなり、俺たち王族も戦場に駆り出されることになった。


「殿下! 前線は危険です、退避を!」

「黙れ! 俺は第一王子だぞ! この手で王都を守ってみせる!」


 と、カッコよく言ったものの、正直めちゃくちゃ怖かった。

 だって相手は牙むき出しのオーガにトロールだぞ?

 筋肉と凶器の塊みたいな連中に、王族の俺が勝てるはずないだろう。


 でも、兄弟の前で弱音は吐けない。

 必死に剣を構えていたそのとき――


「兄上、後ろです」


 聞き慣れぬ低い声が、俺の耳に届いた。

 振り返ると、そこにはルクスが立っていた。


「な、なんだ六男。お前は下がってろ、足手まといに――」

「――〈雷槍(ライトニング・ランス)〉」


 バシュウッ!!


 ルクスが詠唱した瞬間、青白い稲妻が一直線に放たれ、迫りくるオーガの胸を貫いた。

 巨体が炭のように黒く焦げ、ドサリと倒れる。


「……は?」

「ご無事ですか、兄上」


 俺は呆然とした。

 六男が……ルクスが……魔法を成功させた?

 いや、それどころか、王国の宮廷魔導師でもここまでの威力はそうそう出せないぞ!?


 なにが起きてるんだ!?



---



 それからの戦いは、もはやルクスの独壇場だった。


 剣を取れば、騎士団長を凌ぐ剣速。

 魔法を撃てば、戦場が更地になるほどの大爆発。

 気づけば敵軍は半壊し、俺はただ後ろで口を開けて突っ立っているだけだった。


「ふぅ……これで一段落ですね」

「……」

「兄上、怪我はありませんか?」

「……な、なんなんだお前は」


 俺は思わず口走ってしまった。


 無能のはずだった六男。

 何をやっても駄目で、いつも王族の笑いもの。


 その六男が――まるで別人のように有能になっている。


「……ひょっとして、お前……転生とかしたか?」

「……っ!?」


 ルクスが一瞬、目を泳がせた。

 図星だ。


 いや、どういうことだよ。

 なぜ弟が転生してチート能力を手にしているんだ?

 普通そういうのは俺の役目じゃないのか!?



---



 戦いが終わったあと、民衆は一斉にルクスを称えた。


「ルクス殿下こそ真の英雄!」

「六男殿下万歳!」

「第一王子様も……その……よく声を張り上げてらっしゃいましたね!」


 ……最後のやつはフォローのつもりか?

 完全に俺は噛ませ犬ポジションじゃないか。


 この日、俺は悟った。

 俺の王位継承権第一位は、もう安泰ではない。


 六男ルクスが、俺の立場を脅かし始めている――と。


【第一話・完】

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