八月二十九日

 たまには自己嫌悪以外を取り上げた日記を書いてみることにする。今日はゆりさんに合ってきた。ゆりさんというのは私がかつてお世話になっていた喫茶店のママさんのことだ。その店が夏の初めごろに閉店してめっきり会う機会がなくなった所にゆりさんから電話があったのだ。なんでもまた近所に来た際には酔ってくれとのこと。それで私は今日の昼、指定された場所へと向かった。てっきり喫茶店かカフェだろうと思っていた待ち合わせ場所はネパール料理屋であった。スパイスの香りが立つ異国の雰囲気満天の店内にゆりさんとかつての常連のあっちゃん。妙な雰囲気であった。席に座り、話をしている所に丸々としたネパール人の店主。

「ゴチュウモンハ?」

「アイス珈琲を」

まさかネパール料理屋で珈琲だけを注文する日がこようとは思っていなかった。ゆりさんたちと話していると、ゆりさんの自宅はこの店のちょうど向かいで、時々、ここに来てお茶をしているとのことであった。店主さん、これ、オッケー? 

 時刻は十五時半。おやつ時のネパール料理屋には私たちの他に客がいなかった。それが時間帯の所為であれば良いが、ご老体の方ばかりが住まうこの立地にあることが原因だとすれば、この店の前途が危ぶまれる。店主さん、ここ、オッケー?

 結局一時間程四方山話をして解散となった。ふと店の看板に目を落とすと、十五字から十六時までは休憩の時間であった。店主さん、すまん。

 一度帰宅し、書きかけの小説に手を付け、質を幾らか悪化させた私は、夕飯時を少し遅れて、もう一度そのネパール料理屋を訪れた。二十時を過ぎた店内には人は居なかった。注文したマトンカレーを食べてみると、美味。インドビールとやらを飲んでみると、美味。もう少し近所にあれば、私は足しげく通っていたかもしれない。とはいえ、私には既に世話になっている別のネパール料理屋があるから、どうなることやら。ネパール料理屋の掛け持ちというわけにもいかないだろう。

 さて、帰宅してみるとパソコンがインターネットに繋がらない。何をどういじってみても、なんともならない。結局、修理依頼を出すことになった。ここで懸念がある。修理の際には諸々を初期化する可能性があるらしい。うっかり変に初期化されてofficeのデータまで初期化され、プロダクトキーなしには使えないなんということになっては大弱りである。インドビールに酔った頭でそんなこと考えたって、どうにもならない。最近はどうも、どうにもならないことばかり考えている。

 一体私は何かをどうにかする気があるのかないのか、今もって分からない。どうにかしなければならない筈なのに、戸惑ってばかりいるのだ。何か始めなくてはならないのに、狼狽えてばかりいるのだ。そろそろ、何かの期限が近づいてきている気がする。なんの期限かって? 私にだってわからない。無理に形容するなら人生手遅れ期限だ。もう過ぎているかもしれないが。人生、まだ、オッケー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る