八月三日
今日は一日バイトだった。このバイトというのがどうしようもなくしんどいのだ。疲れるのでも疲弊するのでもなく、しんどいのだ。私はかつて、自身を本気で接客業に向いている人間だと信じていた。今になって思えば壮大な勘違いである。人の顔色を伺い、些細な感情でも拾い上げてしまう私の気質が接客業などに向いているわけはないのである。だから最近の私は接客中になるべく客の目を見ないようにしている。感情が流れ込んでくるのが嫌なのだ。いつになったら辞められるのだろう。そんなことを考えながらも、何か新しい仕事を始める気にもなれない。私に向いている仕事など、無いのではなかろうかと本気でそう思う。きっと私は人間が嫌いなのだろう。
別の話題にしよう。昨夜、全ての作業を放り出し、缶チューハイとコンビーフで晩酌をしたのだ。コンビーフなら私を少しは愉快な心持ちにしてくれるだろうと思ったのであるが、そんなことはなかった。質の悪い酒はいかに肴が良質であろうと、質の悪い酔いしかもたらしてくれなかった。結局私は明け方になって泥のようになった脳髄で母親に自分がいかに駄目な人間であるかを書き連ねた怪文書を送ってしまったのだ。たった二本の缶チューハイできっと私は泥酔していたのであろう。まさか、アパートの三階から転落したあの時ほどではなかったのだろうけれど。思えば酔って碌なことをした試しがない。秘めていた筈の汚泥のような自己嫌悪が身を蝕むし、幾らか財布も薄くなる。それでも尚、バイトの前日には酒を飲まなければいられない程の不安が私を襲うのだ。
働かなければ食ってゆかれぬ。そのためだけに働いているのだ。働くといって、まともな人のように働くのではないのだから大笑いだ。働くことなく、気の向くように小説だけ書いて生きてゆきたい。それだけのことがこの世界では許されないのだ。いや、少し違う。私自身が、それを許さないのだ。結局私はまともになる努力もできず、世捨て人になるだけの度胸もないのだ。なんたる中途半端。どうなってゆくのだろうと考えることはしたくない。堕落した、どうにも使い道のない馬鹿な男の野垂れ死ぬ未来しか見えはしないのだ。
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