第9話 強化
宿のベッドに腰を下ろした俺は、思わず大きなため息を吐いた。
「……はぁ。結局、屋根の修理代で全部吹っ飛んだな」
本来なら新しい防具や回復薬、旅用の装備を少しは揃えておきたかった。
腰袋の中には、数枚の銀貨とわずかな銅貨。残りは宿代と食費で消える程度しかない。
「……貯金するって大事なんだな」
次からはお金を貯めて行こう。
……とりあえず心に誓ったものの、今すぐ財布が膨れるわけじゃない。俺は天井を見上げながら、ふと別のことを思い出した。
「そういえば……この前のダンジョン攻略で、スキルポイントを7も獲得したんだったな」
金がないなら、せめて自分を強化するしかない。能力値でも上げて、少しでも死ににくくなった方がいいだろう。
俺は意識を集中させ、自分のステータス画面を呼び出した。
――――――――――
《名 前》 レン
職業・・・戦士
レベル・・・30
体 力・・・50+10(60)
魔 力・・・250
攻撃力・・・15
耐久力・・・10
素早さ・・・15
知 力・・・20
固有スキル・・・スキルツリー
所有魔法・・・鑑定眼、
――――――――――
「戦士にしては魔力が高め...なのか?」
いまいちよくわからないが、ユナの言っていることだから間違いはないだろう。となると、今あげるべき能力は魔力か。
「でも……魔力に振ったところで、戦士のままじゃ宝の持ち腐れだよな」
俺はこの前買った魔法書を開く。
「えっと、何々……?」
ページには細かい魔法陣の図や、詠唱の断片がびっしりと書き込まれていた。
――魔法を習得するには、魔導書を読み、その仕組みを脳内で紐解いていく必要がある。原理まで理解した者だけが、魔法を行使できる。
「……なるほど。つまり、ただ暗記すればいいわけじゃなくて、仕組みを“理解”しないと駄目ってことか」
俺は頭を抱えた。正直、勉強なんて得意じゃない。けど、せっかく高い金を出して買ったんだ。読まずに放置するのはもったいない。
ページをめくると、「初級魔法」の項目が目に入った。
洗浄魔法や翻訳魔法といった、生活に役立つ程度の魔法ばかりで、戦いの役には立ちそうにない。逆に言えば、このくらいしか一般人は習得できないのだろう。
「……やっぱりな。魔法って、結局は才能のあるやつだけが戦闘に使えるんだよな」
ため息をつきかけたその時――ある一つの魔法に目が留まった。
《転移魔法》
説明文を読む限り、この転移魔法は視認した場所に限り瞬時に移動できるというものだった。距離制限や魔力消費も書かれているが、それでも戦闘や探索の場面では桁違いの有用性を持つ。
「よし、習得する」
覚悟を決めて、ページに書かれた魔法陣を目に焼き付けるように読み込む。頭の奥が熱くなる。理解の糸口を掴むたびに、気持ち悪くなる。
やがて――
【
視界の隅に淡い光の文字が浮かんだ。
「お、おお! 本当に覚えた!」
初級魔法でこれだけ時間がかかるのか。頭がクラクラして、全身の力も抜けそうになる。中級以上の魔法とか、絶対無理だな。
「これさえあれば、少なくとも危険な場所でも逃げ道は確保できるな」
俺は息を整え、ベッドに深く腰を下ろした。
ステータス画面をもう一度呼び出すと、所有魔法欄に《転移》がしっかりと表示されていた。
かなり疲れたが、もう一つやることがあった。
それは、スキルポイントの振り分けだ。7ポイントも溜まっている以上、ただ魔力を増やすだけではもったいない。戦闘での生存率を上げるために、慎重に考える必要がある。
俺は再びステータス画面を開いた。
――――――――――
《名 前》 レン
職業・・・戦士
レベル・・・30
体 力・・・50+10(60)
魔 力・・・250
攻撃力・・・15
耐久力・・・10
素早さ・・・15
知 力・・・20
固有スキル・・・スキルツリー
所有魔法・・・鑑定眼、
――――――――――
「結局魔力を上げるか、体力を上げるか……攻撃力を上げるか……いや、耐久力に振るのも悪くない」
何度も指で画面をなぞりながら、どの能力にポイントを振ろうか考えた。結論は、戦士としての基本能力を底上げしつつ、魔力も少し伸ばすこと。戦士の前線での生存力と、《転移》を活かす魔力の両立だ。
丁度、スキルポイントの選択肢にも《魔力上昇Ⅰ》《体力上昇Ⅱ》《防御力上昇Ⅰ》が用意されていたため、ポイントを割り振るのは簡単だった。
俺はまず、《体力上昇Ⅱ》に2ポイントを振った。これで前線での耐久力が少し上がるはずだ。次に、《防御力上昇Ⅰ》に1ポイントを振る。装備だけに頼らず、身体そのものの防御力を底上げするイメージだ。
残りの4ポイントは、どうするか。
「まあ……これで、少しは戦いやすくなったはずだな」
画面を閉じ、ベッドにもたれかけた。
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