第4話 Cランクダンジョン

 Cランクダンジョン『灰晶の洞』。


「来たは良いがこれ、一人で攻略できるのか...?」


 俺のステータス的にはCランクダンジョンを一人で攻略することは厳しい。


「Cランクダンジョンぐらい、一人で攻略できないとBランクダンジョンなんてなんて絶対無理だよな……」


 何よりも強い魔物を倒せば倒すほど獲得できるスキルポイントも増える。新しいスキルを手に入れるにはもってのほかだ。


黒掌シャドウハンド》。魔法...だよな。魔法とかスキルにはあんまり詳しくないんだよな。


 そもそも魔法ってのは、才能ある連中か、膨大な魔力を持ってる奴が使うもんだと思ってた。俺みたいな二桁魔力の貧弱ステータスには、縁がない領域だと。


「……まぁ、使えるなら使うしかないか」


  俺は一人、灰晶の洞ダンジョンへ踏み込んだ。


―――――――――


 灰晶の洞 15階層目。


 このダンジョンの最も厄介なのはダンジョンボスでもあるロックバードだ。全身が岩のように固い皮膚でできており生半可な攻撃では傷をつけることができない。


「おっと、そろそろか」


 こうやって扉の前に立ってみると、こんなボロボロの剣で勝てるのか心配になってきた。でもここで死んだら、ユナに怒られるしな...。


 扉の前で息を整え、俺は思い切って扉を押し開けた――


「――っ!」


 目の前に広がったのは、巨大な鳥の姿。翼の先端は鋭く、岩のような鱗が全身を覆っている。威圧感が半端じゃない。だが、向こうもこちらに気づいたらしく、低く唸り声を上げて羽を広げた。


 ――そして、攻撃のタイミングを計る。


 俺はまず距離を取った。ロックバードは体を大きく揺らし、爪を振り上げる。もし直撃すれば、一撃で瀕死だ。


 俺はロングソードに込めた魔力を最大限に圧縮して、ロックバードに斬りかかった。が、全身を覆う岩のような鱗が、俺の剣をまるで紙切れのように弾いた。


「くそ……どうすりゃいいんだ?」


 ロングソードを鑑定する。


《ロングソード(中古) 耐久値:15/100

 品質:低級

 特殊効果:なし

 備考:金属疲労が進行。次の強打で破損の可能性あり》


 魔力を込めたことで、微かにだが硬度も増した気がする。耐久値もわずかに回復――9/100から15/100に上がった。だが、これで安心できるわけではない。


……これ、マジでやれるか? 魔力を込めて硬度を少し上げたとはいえ、耐久値15/100のボロ剣だ。次の一撃で刃が砕けても不思議じゃない 。


「……やるしかないか」


 俺は深呼吸をひとつ入れ、再びロングソードに魔力を集中させた。全身の力を込めて振り下ろす。


――しかし、衝撃は再び跳ね返った。


「うわ、やっぱりか」


 剣先が岩のように硬い鱗に弾かれ、手に振動が返ってくる。腕がガクガクと揺れ、思わず踏みとどまるのが精一杯だった。耐久値の残りは6/100――もう一発まともに当てれば、確実に折れる。しかも、俺の魔力も底をつきかけている。


「クソッ! この鑑定が攻撃にも使えたら...」

 

 汗が額を伝う。手元の剣を見下ろしながら、ふとひらめいた。


 そうだ……魔物の各部位を鑑定すれば、どこが弱点か分かるんじゃないか?


 これまで鑑定は装備やスキルの確認にしか使ってなかった。だが、魔物にだって応用できるはずだ。硬い鱗の裏や関節、翼の付け根など、弱点さえ分かればボロ剣でも十分に攻撃できる。


 俺は息を整え、意識を集中させてロックバードをじっくり観察する。


《鑑定:ロックバード》


――各部位に魔力を流し込み、硬さや耐久、弱点の有無を感知する。


《頭部:非常に硬い。通常攻撃では無効》

《翼:先端は硬いが付け根付近はやや弱い》

《脚:関節部は比較的柔らかく貫通可能》

《尾:鱗は硬いが、先端にかけて微細な亀裂あり》


「なるほど……ここか!」


 弱点を把握すれば戦略が変わる。正面から全力で叩きつける必要はない。狙いを定めて攻撃すれば、耐久値6のボロ剣でも戦える可能性がある。


 耐久値6……もう限界だ。次の一撃で剣が砕けてもおかしくない。


 俺は覚悟を決めた。今あるすべての魔力を剣に注ぎ込み、この一撃に全てをかける。


「……行くぞ!」


 ロックバードの翼の付け根、弱点を正確に狙う。剣を振りかざし、全力で叩きつけた瞬間――


――ガキィィィィンッ!


 耳をつんざく金属の悲鳴。剣先から衝撃が全身を駆け抜ける。耐久値はとうに限界を超え、折れる寸前だ。だが――鱗に薄く亀裂が走る。


 ロックバードが低く呻き声を上げ、翼を大きく振るう。だが、その瞬間、俺はためらわずに連続攻撃に移る。耐久値6のロングソード――もう持つかどうか分からない。しかし、弱点を捉えた今、ここで止まるわけにはいかない。


 俺は魔力を再び剣に流し込み、脚の関節に狙いを定めて振り下ろす。――ガキッ、と小さな音とともに鱗の隙間に刃が食い込む。ロックバードが翼をバタつかせて防御するが、今度は尾の亀裂に集中攻撃を加える。


――ガキィィンッ、バキィッ!


 最後の一撃で、剣がついに限界を迎えた。しかし、同時にロックバードの身体に深い亀裂が走る。岩のような鱗が砕け、巨大な鳥は大きく後ろにひっくり返った。


「はぁ、はぁ。一人でCランクダンジョン...。攻略...達成」


 俺は魔力が尽きたことで、その場に倒れこんだ。

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