第4話 霊でも方位磁針は必需品

一体ワルツはどこにいるんだ?


僕がいなくなって、ワルツも心配していることだろう。

心配していてほしい。

え、心配してるよね?


いや、俺が不安になってはダメか。

もう15年もほぼ一緒に過ごしてきた家族みたいなもんだし、逆に俺のことで悲しみすぎていないかっていうのが心配なくらいだ。


(さて、どうしようかなぁ…)


まず考えなくてはならないのが、ワルツが”僕が死んだこと”に気づいているかどうかだ。

もしまだ生きてると考えるならば、カパネ山の中をずっと探し回ってくれているに違いない。


そのパターンが一番危ない。


だって、仮にも剣のウデに自信があった僕がやられてしまったということは、同等の実力であるワルツでも歯が立たない相手が山に潜んでいるかもしれないってことだからだ。


ワルツは賢いから、”町に行って”助けを求めた可能性もあるな。


次に僕が死んでいることに気づいた場合だ。

確かにワルツは虫には弱かったけど、それ以外ではとても頼りになる”漢”だった。


村の子供たちの間で殴り合いの喧嘩が起こった時も率先して仲裁に入るような頼りがいを発揮していたのをよく覚えている。


だから山の中でめそめそ泣いていたりはしないはずだ。


ということは、このパターンでは約束の通りに”町へ向かった”か、それとも僕の死を報告するために”村に帰った”かの二択だ。


くっそ…もし村に帰っていたとしたら僕は終わりだ。


さすがに町にたどり着くまでに死んだって、、、ダサすぎるだろ!

そんなので親を泣かせたくなかったよ…


まぁいずれは両親に報告されるんだろうけど。


つまり僕が探すべき場所は、”山”か”村”か”町”になってくるよなぁ。


どこにしよう。

ワルツと僕の友情を信じて…


結局僕はカパネ山の記憶に残っている最後の寝床から町に向かって進んでみることにした。


ワルツは人生のレールを外れることはあれど、山道を外れることはないだろう…っていう、ね。ハハ。


でも村に帰るにしても、町に向かうにしても山を越えなきゃいけない。

そして、ワルツには僕のことを気にしすぎずに夢を追ってほしいという願望もあって町に向かうのを期待したっていうのもある。


(で、ここどこーーーーーーーーーーーーーー!!!)


周りには木がたくさん生えているが、実は今いる場所について全く僕は分かっていなかった。


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しばらく、いや気分的には三日三晩ほど歩いて見覚えのある焚火跡にたどり着いた。


霊体だとお腹も空かないし、眠気も来ないし、便意だって催さない。


だけど、それは身体の話。


僕の心に言わせてみれば、ずっと同じような景色の中歩き続けて、「もうたくさん」って感じだった。

死ぬ前に食べたあのトウモロコシのことを思い返すと、食欲があふれ出してくるし、いったん寝てぼーっとしたいと思ったり、便意は…まぁ催しはしないけど。


焚火跡の周りに広げていた荷物は案の定なくなっていた。

ワルツが片して僕の文の荷物も持って行ってくれたのだろう。


周りを見回すと、木の枝に何かが引っかかっているのが目に入った。


近づいてみると、そこにはワルツの持ってきていた調理なべがかかっていた。


おそらくワルツは救助隊を呼んだ時の目印として、この鍋を残していったのだ。


それに気づいた僕は、霊体となって疲れを感じない身体だからと鞭を打ち、ルービの町に向かって昼夜走り続けた。


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