03『追放されなきゃ追放モノは始まらないでしょ』
「(思い通り……思い通り思い通り!!)」
そう、ここまでの流れ……ツルギの婚約者チユがパーティーに入り、代わりに自分がパーティーから追放されるところまでが、全てクサリによって計画された事だったのだ。
彼女は心の中で、今日に至るまでの苦労を感慨深く省みた。
「(半年間の入念な準備の結果、ついに楽隠居の準備が整った! 貯めたお金で郊外の館を買い取ったし、次の仕事も目処がついた。あとは後腐れなくこのパーティーを抜ければ、夢の
『ライフ』と『人生』は重複しているが、今のクサリは興奮のあまり知能が低下していた。
冒険者として生計を立て始めて数ヶ月の頃、クサリは仕事中に偶然拾った宝石をこっそり行商に売ったところ、目玉が飛び出るような額の金が懐に飛び込んできた。
さすがにそれだけで一生暮らすわけにはいかないが、それでも数年は働かず過ごせるような大金だ。
しかし、ここで突然パーティーを抜けてしまえば仕事に穴ができて禍根が残る。クサリは前世で最初の職場を辞めた時、上司から死ぬほど詰められた経験がトラウマとなっており、今ここで自分から『辞めます』とは死んでも言えなかった。
それに、辞めた事を不審がられ、多すぎる臨時収入の事を嗅ぎつけられれば、どのような妬みを買うかも分からない。
だから、別の誰かからパーティーを抜けてほしいと頼まれるように仕組んで、自分はそれに従って仕方なく辞めたことにする。これなら、今の
そこからクサリは、将来を楽に暮らすための計画を立て始めた。
「(ツルギさんに婚約者がいて、その子がヒーラー志望だったのも事前に調査済みなのよ!)」
まず、自分がパーティーを追放される状況を作ろうと考えたクサリは、ツルギの婚約者チユが冒険者に、しかも自分のポジションであるヒーラーを目指していることを知った。
だが、チユの務めていた教会が財政難に見舞われ辞められなかった事を知ったクサリは、匿名でその教会に多額の寄付を行い、チユが教会を離れるきっかけを作った。
話はまとまったものの、何となくクサリが立ち上がらないと解散にできない空気を感じて、誰も席を立てない感じになっているところで、クラヤミが口を開く。
「そ、それにしても随分急な話だなツルギィ……婚約が決まって嬢ちゃんを連れてくる前に、一声あっても良かったんじゃねぇかァ? 『急いては事を仕損じる』だぜェ……?」
「本当はそのつもりだったんだけど、婚約指輪を発注していた職人さんの体が急に元気になったとかで、3ヶ月以上早く出来上がっちゃってね。居ても立ってもいられなくて」
「(職人のおじいさんに薬をあげたのも私です!!)」
クサリは、みんなから見えない角度でドヤ顔を抑えきれなくなっていた。
ツルギが婚約指輪を渡してプロポーズをすると同時に、チユが教会を辞職するつもりであることも事前リサーチ済みである。
そこで、職人の行きつけの薬師のところに超高級な薬草を納品し、薬が職人に渡るように仕向けていたのだ。
これによって予定より早く辞職したチユは急いで冒険者にならざるを得なくなる。貴族は体裁を気にするため、無職でいることを良しとはしないからだ。
その他、宝石を売って手に入れた財力と情熱によって小細工を重ねた結果、自分以外が追放される可能性を限りなくゼロに近付け、自分が確実に追放される地盤を固め、そして今に至る。
「(私の勝ちだっ……! 人生のっ……勝利者……!!)」
あとは最後の仕上げに、可能な限り名残惜しそうな表情を作りながらこの場を去れば全てが終わる。そういう演出のために、席を立つのを少し遅らせている。
いざ辞めるとなってトラウマがフラッシュバックし、足が震えているせいでもあったが。
「……そ、そそそれでは、これで失礼しま」
「クサリちゃん」
足どころか全身が震え始めたクサリを、トロドキが呼び止めた。
流石に予想外の出来事であったため、クサリは目を丸くしてトロドキの方を見る。
「なな、何ですか……?」
「大丈夫? 随分震えちゃってるけど」
「アッ!!!!!」
トロドキの手がクサリの肩に添えられ、顔を近付けて覗き込まれる。
その瞬間、クサリの中で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます