異世界渡り魔王の最強軍団
首謀S・R!
魔王に狙われ続けた国の話
とある別世界にある平和な国「ボッカ」
平和が100年続いたこの国に対してある日、別世界からのゲートを通って魔王の軍団が攻め込んできた
総数100万を超える、多くの種類の魔物たちによって構成された精鋭の軍団
彼らについた深い傷と歴戦の装備が、軍団の強さと戦歴を雄弁に物語っていた
軍団のリーダーを務めるのは、魔道の申し子にして1万年に1人の逸材と言われる、強力な魔法の力を持った魔王
「ブチノ=メ=シタノレ」
彼の率いる魔物の軍勢は広大な平地を地平線まで赤黒く埋め尽くしながら、ボッカ国の首都「レステンシア」の城壁に迫りつつあった
魔王軍の伝言役である魔物が、魔王の出現で混乱のなかにあるレステンシアの城の玉座の間に飛来
国王たちに対して魔王からの宣戦布告を読み上げた
「我らが軍団がこの地に来た以上、貴様ら脆弱な人間に残された道は降伏による死しかない。明日の明朝までに城を明け渡せ!無駄な抵抗をするなら一方的な蹂躙と殲滅を容赦なく行う」
伝令役の魔物は国王たちにそう伝えると、国王の間にあった「勇者召喚用の魔方陣」を見つけ出し、魔法で燃やして使えなくした
そのまま彼らは軍に帰還し、勇者という対抗手段を先に抑えたこと、震えあがる国王とその取り巻きたちの姿を魔王に報告する
このまま順調にいけば、我が軍はさらなる領地を手に入れることになるだろうと
魔王はほくそ笑んだ
勇者召喚の時間など与えず一気に攻め込む戦術こそが
この魔王の常勝を支えてきた
そしてそれはまた、この世界の人間たちにも有効打となるだろう
魔王は明日の戦いに対する勝利を確信した
---
翌朝
魔王の軍勢1000万が集まっている広大な平原を朝日が照らし出す
「ついに人間どもの回答はなかったな。しかたない。蹂躙だ!人間どもを皆殺しにしろ!一人残らずだ!!!」
平原を埋め尽くしていた魔王の軍団から「オー!」という歓喜を含んだ雄たけびがあがった
いくつもの都市を数と力の暴力で蹂躙してきた彼らの持つ絶対の自信
その無慈悲な暴力が今まさに「ボッカ」の国を襲うために進撃を開始した
---
1時間後
「手間を取らせやがって」
「やめろ、やめてくれ」
レステンシア城下町中心の広大な広場には、すでに膨大な量の死体の山が築かれ、莫大な量の血が地面を染めあげていた
「10年ぶりに骨のある奴が来たと思ったら、この程度じゃったか」
目の前で倒れている魔王にそう言い放ったのは、レステンシア国王だった
1万年に一度の逸材は、兵士たちの手によって地面に押さえつけられていた
「この死体の山、誰がかたずけると思ってるんだい!」
「数ばかりそろえやがって、いい加減にしろよバカヤロウ!」
「ウチがどんな城か聞いてねぇのか!よく魔王やってるな?」
国王の後ろに集まってきた街の住人たちは、倒された魔王軍団の亡骸が自動的に消えないことに対して怒りの声を上げていた
周囲の人間たちから一通りの罵詈雑言を受けた後、魔王は顔をゆっくりと上げつつ、国王に問いかけた
「聞きたいのだが」
「なんじゃ?」
「ここは『どんな城』だったのだ?」
その問いに対し、国王は憐みの顔を向けながら言った
「ただの人間の城じゃ。ただし…」
「ただし?」
「魔王が倒れ勇者が去った後でも、魔王を倒したくて倒したくて仕方ない『ガチ勢が集まって作った国』じゃ」
「?!」
つまり、この世界に着いてからいきなり世界最強に挑んだのだと魔王は理解した
「あ、べつに最初にここに来なくてもよいのじゃぞ。我々は世界中どこでも行くからな。むしろウチが儲かるから、そっちの方が『手加減してやれる』かもしれんな。ハッハッハッハッ」
魔王は全身に冷や汗が流れるのを生まれて初めて感じた
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってる魔王に対し、国王は言った
「……で?次はいつ来るんじゃ?」
「!????!!!!!」
人が持てるサイズとは思えないバカでかい大剣を担ぎ上げたまま、国王はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた
その笑みに対し、魔王「ブチノ=メ=シタノレ」は生まれて初めて、心の底から震え上がった
限界だった
「『緊急脱出魔法!』」
とっさに逃避行を選んだ魔王だったが、魔法は発動と同時にかき消された
「まーた逃げようとしやがったぞ、魔王のくせに」
「オニキスさんの魔法封じは効果絶大だね」
「5年前に来た魔王なんぞ、飛翔して天井に頭ぶつけてたからなw」
国王に負けず劣らずなサイズの巨大な武器を持ったまま、和気あいあいとしゃべる住人たち
いくら魔力をこめても何の反応もないと知った魔王
こんどは走って逃げようとするが、後ろから走ってきたマッチョ住人に追いつかれて取り押さえられてしまった
首根っこをつかまれた魔王は、国王の前に連れ戻される
一連の魔王の行動に対して怒りの顔を向けながら国王は、あきらめてガタガタ震えている魔王に対してこう言った
「逃げるのは構わんのじゃが、とりあえず全部、掃除してからにしてくれんか?」
「は?」
「お前さんらのやったことじゃろ!魔でも王なら最後まで責任持たんか!!」
「は、はい、責任もって片付けさせていただきます」
---
こうして魔王を撃退し平和を取り戻したレステンシア城下町
そこには残ってくれた数名の腹心たちと共に、広場を片付ける魔王の姿があった
責められると思ってたが、街の人たちは意外にも掃除機材を貸してくれたり、あれこれ言いながらも壁の補修を手伝ってくれたり、魔力回復用のポーションを差し入れたりしてくれた
こちらから戦闘をしかけなければ何もしてこない
今まで通ってきた弱肉強食の世界では考えられない行動様式だった
「この世界の人間って、なんなんですかね?」
「…しらぬ」
逃げられないように首に移動封じの首輪をつけられてメイド服に着替えさせられた魔王は、腹心の問いに軽く答え返すと、そのまま黙々と元部下の亡骸を片付け続けた
ガチ勢の怖さを味わった魔王
だが同時に、己の力の足りなさを悔い続けた
---
今年もまた、勇者が呼び出されることなく、魔王が討伐された
もう一度言おう
ここは100年の平和が続く「ボッカ」の国
その首都レステンシアは100年間、一度も魔王に支配されなかった国
支配される前にすべてを返り討ちにしてきた、ガチ勢の国…
異世界渡り魔王の最強軍団 首謀S・R! @syubouSR
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます