【短編集】私立あかつき学園番外(不定期更新)
サブサン
土師京子 絆の始まり
【読者の皆さまへ】
お読みいただき、誠にありがとうございます。
この物語は、不定期連載の短編集です。
・本作品は「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」
における「原則1話完結」のスピンオフです。
今回は「第12章 招かれざる客」の裏側です。
https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761
・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。
・[残酷描写][暴力描写]があります。ただし、話の内容によってはその描写がない話もあります。
・近況ノートに、主要キャラクターイラストや相関図を用意しています。イメージ補助にお役立てください(全シリーズ共通)
※最新の相関図(近況ノート)※「キャラごとのキャッチフレーズ」付き!
https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437582060358
※コンセプトアート総合目次(シリーズ全体)
https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792437366460945
※ワールドMAP
https://kakuyomu.jp/users/kyotobond007/news/16818792438236715528
・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。
以上、よろしくお願いいたします。
【スピンオフ本編】
2017年4月。郡真県あかつき市――
北南と東は、霧島連峰に囲まれた自然豊かな風景。
北から西南へ霧島川が流れている。
川には学園への唯一の出入り口である、霧島橋が架かっている。
川の東側にある学園。
それが私立あかつき学園である。
桜が舞い落ちる春の朝、学園の体育館では新入生たちの期待と緊張が入り混じっていた。
――4月の朝。私立あかつき学園。入学式直後。
人で賑わう校庭の片隅、ベンチに一人腰掛けている女子生徒がいた。
黒髪のロングヘアに、白いヘアピンをつけている。
頭頂部でシニヨンにしているが、後ろ髪も長い。
まるで、顔を隠そうとしてるかのようだった。
背丈は158センチと平均的な高校二年生だ。
彼女は
ブレザーの制服はまだ真新しく、きちんと着こなしているのに、その目はどこか怯えている。
「どうして……私は……ひとりなの?」
京子は思案に暮れていた。
そんな中、京子に声をかけた少女がいた。
「どうして……一人なの?」
声をかけてきたのは、明るい茶髪のショートカットの少女―。
小柄で身長は150cmくらいだろうか。
少女は明るい声で京子に話しかける。
「私……ひなた。
「……」
京子は一瞬、何と答えればいいのかわからず、視線を落とした。
―その瞬間、過去の記憶が脳裏をよぎる―。
郡真県二階堂町、林に囲まれた孤児院があった。
――孤児院 新生の家。
白壁の建物の隣には小さな礼拝堂があり、鐘楼の下では尼僧や牧師が子供たちを見守っている。
「今日も元気に……」
笑顔を向ける一人の老牧師。
その声がふと低くなり、独り言のように牧師は呟く。
「……ファウンデーションの影が、また……」
すると、その牧師の側に幼い少女がゆっくりと近づく。
老牧師はにこやかな視線を少女に向けた。
「京子さん。中学校はどうですか?」
京子は表情を暗くする。
「……丹羽牧師……私……」
「頑張ってください。きっと……」
――数日後の霧島中学校。
霧島中学校は二階堂町にある、小さな公立中学だ。
その昼休み、京子は数人の同級生に囲まれていた。
「お前、孤児院の子なんだろ?」
「誰もお前なんか好きにならないよ!」
「暗いんだよ!バーカ!」
嘲りの言葉が京子の心に突き刺さる。
必死で言葉を絞り出すが、それはかすかな響きをもたらすだけだった。
「……やめて……やめて……」
目に涙が流れ始める。
すると、空間を切り裂く声がこだました。
「お前たち!やめろ!」
一同の顔が声の方向に一斉に振り返った。
強い瞳。
短髪で身長は175センチくらい。
筋肉質な身体を学生服に包んでいた。
京子を取り囲んでいた同級生たちが声を上げる。
「げっ!小早川!」
「礼司じゃねえかよ!」
「警官の息子にかなわねえよ!逃げろーっ!」
そして、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
小早川は一人で泣き崩れる京子にゆっくりと近づく。
そして、優しく話しかける。
「大丈夫?土師さん」
その優しい瞳に、京子は小さく頷くことしかできなかった。
「……ありがとう……礼司くん……いつも……」
その夜、孤児院に戻った京子は、丹羽牧師に学校での出来事を伝えた。
丹羽は穏やかな笑顔で話し始める。
「京子さん……人は皆、勇気が必要です。たとえ小さな一歩でも、その一歩が何かを変えるかもしれません」
京子の脳裏に礼司の優しい笑顔が浮かぶ。
(けど……私には……何も……)
――数年後。霧島中学校の卒業式の日。
京子は桜舞う校門を潜り抜け、卒後証書を手にとある場所へ向かっていた。
(礼司くんには……守ってもらってばかりだった……この気持ち……)
しばらくして、京子の足は、とある場所にたどり着いた。
京子の視線の先には、小さな一戸建てが遠くに見えた。
小さな表札がかすかに見える。
[小早川]
「礼司くん……」
そして、京子は意を決して家へ近づいていく。
しかし、京子は家の側に到達した瞬間驚きの声を上げた。
――えっ!礼司くん……!?
京子の目に飛び込んできたのは「白影引っ越しセンター」と書かれたトラックだった。
京子が目を凝らす。
荷物を積み込む礼司と両親らしき人物がトラックに乗り込んでいた。
「あ……あ…………あ……」
声をかけたいのに、足が動かない。喉が塞がれる。
――ブロロロ―……。
トラックが走り出し、やがて角を曲がって見えなくなった。
「礼司くん……さよなら……」
(私……思いを言えなかった……)
脳裏が真っ白に染まっていった。
――現在のあかつき学園。
「ハッ!」
京子の意識が、過去の記憶から晴れる。
視線の先には、ひなたの顔が京子を覗き込んでいる。
「どうしたの?大丈夫?」
京子は過去の記憶を呼び起こし、思いを反芻していた。
(あれから、私は何も変われてない……)
京子はひなたの目を見つめ、唇を震わせながらつぶやく。
(変わらなきゃ……)
すると、ひなたが少し不思議そうな顔を浮かべる。
「友達がいないの?よかったら私と……どうかな?」
京子の目に急に涙が溢れだした。
「本当に……いいの?……私……」
ひなたが屈託のない笑顔を向ける。
「いいよ!私……なんかほっとけなかったから!」
京子の目にまた涙が溢れだした。
そして、言葉を絞り出す。
「最初……の……友達……あ……りがとう……」
ひなたが優しく問いかける。
「初めての友達?」
「私……孤児院を……出た……ばかり……なの……だから……」
ひなたが満天の笑顔で応じた。
「そうなんだ!気にしないよ!友達になろ!」
京子は涙を拭った。
そして、彼女にも笑顔があふれ出す。
「……
「ひなたでいいよ!名前……教えて?」
京子はややためらいがちに応えた。
「……
ひなたはとびきりの笑顔で京子と視線を合わせた。
「よろしくね!京子!」
(私……)
胸の奥に、温かいものが広がる。
京子は心の中で呟いた。
――今度こそ、あの一歩を。
―完―
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