20
「……よくがんばったわね。もう大丈夫よ」
……!?
いきなり、大人の女の人の声がした。息を切らしながら、わたしはその声の方に顔を向ける。そこには、女の人が一人と二人の男の人たちが立っていた。
女の人はさっき戦ったあの人とほとんど同じ服装だったけど、顔は明らかに違う。あ……もしかして……この人が、本物の町田さん?
その町田さんらしい人は、なんと、小さな拳銃を構えていた。そしてその銃口は……わたしたちを追ってきた、あの女の人に向けられていた。
「Put your hands up, Amanda......or, Codename, "Schwarbe"」
英語なのかな? とても上手な発音で町田さん?がそう言うと、女の人は悔しそうな顔で両手を上げた。
『”両手を上げなさい、アマンダ……いえ、暗号名、シュワルベ” だそうです』
ミライが翻訳してくれた。
「シュワルベ?」
『ドイツ語でツバメのことです。暗号名というのは、スパイが使うニックネームみたいなものですね』
「へぇ……」
わたしがそう言った、その瞬間、男の人二人が手早く女の人の背後に回り、彼女のそれぞれの手を一人ずつ持って下ろさせ、後ろ手にして手錠をかけた。
「なっち……」
声に振り向くと、ショウタくんだった。上半身を起き上がらせて、わたしを少し照れくさそうに見つめている。わたしもすぐに体を起こした。
「ショウタくん! 大丈夫だった?」
「うん。ちょっと痛かったけど、大丈夫。ケガはしてないと思う。アマンダさんも手加減してたみたいだから……なっち、助けてくれて、ありがとう」
ショウタくんが頭を下げる。
「そ、そんな……わたしこそ、わたしのせいで痛い思いさせちゃって……本当にごめんなさい」
「なっちが謝ることなんか、何もないよ。ぼくの方こそ、なっちを心配させちゃって……」
「はぁい! 謝り合戦はそこまで~!」
いきなり割って入ってきたのは、町田さん? だった。しゃがんで私たちをニヤニヤしながら見つめている。
「町田さん!」ショウタくんが笑顔になる。やっぱりこの人、本物の町田さんなんだ。
「ごめんね、遅くなって。君たちが無事でほんとによかったわ。ああそうだ、なっちさん……だっけ? 初めまして。町田 亜佐美です」
町田さんがコクンと頭を下げる。
「あ、初めまして。石田 奈津美です」
わたしもペコリと頭を下げた。すると、町田さんが私にキラキラした笑顔を向ける。その時になって初めて気づいた。この人……けっこうな美人だな……
「あなた……すごいわね。将太くんを背負って公園からここまで走ってきたんでしょ? パワーモードを完璧に使いこなしてる……信じられないわ。あなた、ミライウィザード……いえ、女の子だからミライウィッチかしら……の才能があるわね」
「ミライウィザード? ミライウィッチ?」
「ウィザードは男の魔法使い。ウィッチは女の魔法使いのことだよ」ショウタくんだった。「魔法のようにミライを使いこなすことができる人、ってことだと思う」
「そのとおりよ」と、町田さん。「よっぽど
「そうなんでしょうか……あの……」
「なに?」
わたしは、一番気になるところを聞くことにした。
「だったら、わたしはこれからもミライに会えますか?」
「うーん……そうね……」町田さんは考え込む仕草をしてみせる。「残念ながら、ちょっと難しいかもね。私もいろいろ動いてみるけど……なにぶん国家機密だからね。あまり期待しない方がいいと思う。ごめんなさいね」
「……そうですか」
やっぱり、ミライとはこれでお別れ……か……
ダメだ。どうしても、泣いてしまう。
「う……うぐっ……」
『なっちさん、泣かないでください。きっといつか、また会えますよ。そう遠くない未来に……ミライだけに』
「……」
涙が引っ込んでしまった。
なにそれ。ミライ、ここでそんな寒いギャグぶっこんでくるの?
あ、でも、ミライって、今までもボケたりツッコんだりしてたし、もともとそういうキャラだったっけ。
「ふふふっ」
そう思ったら、ちょっと笑ってしまった。
『その調子です。最後は笑顔で別れましょう。なっちさん。今までありがとうございました』
「こちらこそ、今までありがとうね、ミライ。忘れないよ、わたし……」
『ワタシもなっちさんのこと、忘れませんから。さよなら、とは言いません。なっちさん、また会いましょうね』
「うん。ミライ……またね」
その言葉とともに、わたしは右耳からミライを外した。
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