初級異世界(新婚?)生活のすゝめ~夫がノンデリで妻は大変です?!~

宇部 松清

タイガ視点

第1話 捕獲依頼の漁村にて

 さて、BL異世界のなんやかんやをギリギリのところでかわしつつ、首の皮一枚で耐えている俺である。

 

 さて本日は捕獲依頼のために温暖な漁村・ハラバスにやって来た。

 ちなみに、ここまでどうやって来たかというと、やはりもちろん『折り紙俺のスキル』だ。


「タイガのその折り紙って、デカいやつは出ないのか?」


 どうやってそこへ行こうかと作戦会議をしていた時のことだ。

 そんなことを炎の精霊ゴウさんが言ったのである。


「デカいやつっすか?」

「そ。デカいの出してさ、それで船とか折ったら海渡れんじゃね? 陸路で行くより楽じゃね?」


 俺ナイスアイディアだろ! とパチンと指を鳴らすと、ぼわっと炎が上がる。あっぶね。こっちに燃えうつったりはしないとわかってはいても、熱いものは熱い。


 それに乗っかったのは他の精霊達だ。


「それ良いな。そしたらおれが風で運んでやるし」


 ソヨさんが身を乗り出し、


「それなら僕が波をコントロールしてアシストしますよ」


 水の精霊サラさんがスッと手を上げる。

 こうなるともどかしいのは雷の精霊ゴロさんである。


「やだぁ、アタシだけすることないじゃない! そうだわ! タイガ、折り紙でエンジンとか折れないの? アタシ、電力提供しちゃうわよ!」

「ちょ、帆船のつもりがエンジン式に……!」


 いや、俺が折れるのは『騙し船』だけだから! あれもまぁフォルム的にギリ帆船の判定でイケないかな? ってだけだし。そして航海中にその『騙し』ギミックが発動したら転覆間違いなしだけれども。


 とにかく、そんな感じで盛り上がったわけだ。

 で、肝心の『デカい折り紙』だが、結論から言うと、出て来た。すげぇ、俺、折り紙に関してはマジで何でもアリじゃん。まぁさすがに尻ポケットから畳三畳分くらいの折り紙がノー折り目で出て来た時はびっくりしたけど。なぁこの場合すごいのって俺のスキル? それともこのジーンズのポケット!? これ、セールで買ったウニクロのやつなんだけど?!


 とにもかくにもこれで移動手段の幅が広がった。今回は船だけど、これで飛行機を折れば、小さい鶴の羽を掴んで飛ぶ、なんていう冷静に考えたら絵的にもかなり無理がある移動方法を取らなくてもいいわけである。


 とはいえ、紙飛行機の中に入るわけではなく、上に座る感じになるから、イメージとしては空飛ぶ絨毯だ。えっ、じゃあさ、もういっそ折らない方が広くて良くない? そう思って試してみたのだが、折らないと駄目だった。折らないとただのペラペラした色紙だったのである。何その制約。


 というわけで、俺達は、『鶴の羽を掴むよりは快適な、大人二人がギリギリ並んで跨がれる折り紙の船』を使って、このハラバスへとやって来たのだ。


 船なのに跨って? と思ったやつは騙し船を見たことないだろ。あれはな、名前の通り、『騙す』ための折り紙作品であって、笹舟のように水に浮かべて遊ぶためのものではない。つまり、『乗れる』構造にはなっていないのである。というか、そもそも折り紙全般に言えることだが、基本的に折り紙は水陸両用ではない。というわけで、常識で考えたら水に浮くわけがないフォルムの折り紙の船を、精霊達の力を借りて動かしてやって来た、というわけだ。ひとえに、「スロウ嫌いなやつと直接触れたくない」という精霊心のなせる業である。本日もコイツの嫌われ度は絶好調だ。


 さて、依頼内容だが、先述の通り『捕獲』である。捕まえるのである。何を、というと。


「『ウニョロヌルノロモバス(※養殖でも可)』って何だ?」


 なんかもう名前からしてニョロついてるし、ヌルついている。名は体を表すという言葉に従うなら、こいつはきっとウナギとかそういう系のやつだろうな。それを三十匹捕まえれば良いらしい。


 が。


「ウニョロヌルノロモバスは岩浜に生息する毛の生えた小さなカニだ」

「名は体を表せぇ! ニョロついてもいないし、ヌルついてもいない!」

「どうしたタイガ。ちゃんとハラバス古語でウニョロ岩を宿にするヌル小さなノロ毛むくじゃらのモバスカニだぞ?」

「知るかぁ! 見知らぬ世界の見知らぬ漁村の古語なんて! 最初から言えよ! 毛ガニって! 自動翻訳スキル、仕事しろ!」


 こちとら自国の古文ですらヒィヒィだった勢だぞ!?


 とにもかくにも、その岩浜に生息している小さな毛ガニを捕獲すれば良いらしい。確かにここは砂浜ではなく岩浜だしな。しかし養殖でもOKってどんな依頼だ。これ役所の人間が単に食べたいってだけのやつじゃねぇだろうな。しかも三十匹。カニパーティーか?


「とりあえず、腹ごしらえしてから行こうぜ」

「待てタイガ。今日の宿はどうする」

「あー、そうだなぁ。その辺の宿でよくねぇ? なんかあの辺にいっぱいあるし」


 と、ずらりと並んだ宿泊所を指差す。


「何だと?! この僕が?! あんっっっっな寂れたところに?!」


 まぁ確かにお世辞にもきれいなところではなかった。浜風のせいだろう、屋根にはあちこち錆が浮いているし。ただ、こういうところって、飯が美味いイメージがある。何せ目の前は海だ。


「仕方ないだろ。手頃なホテルなんてなさそうだし。我慢しろよ」

「ぐっ……。これも冒険者に課せられた試練……っ!」

「宿がある時点で試練でも何でもないだろ。嫌なら別にお前だけホテル探しても良いけど」

「何を言う! そんなのは駄目に決まっているだろう! いいか、夫婦というのは一蓮托生なのだぞ!」

「いや、別居婚してる夫婦もいるし」

「他所は他所、ウチはウチだっ!」


 それはまぁそうだけどさ。


「た、ただ、まぁ、あんな小さい宿だからな! きっと部屋も狭いだろう。ベッドも小さいだろうから、た、多少身体が触れてしまうのは不可抗力であろうしな!」

「いや、さすがに二部屋取るに決まってるだろ」

「エッ?!」

「二部屋取るって」

「それは聞こえている! 何でだ!」

「何でって、いまスロウも言ってたろ、部屋も狭いだろうって。たぶんその通りだと思うし」

「だとしても! 夫婦は同衾すべきだ!」

「いや、俺らは夫婦っていても仮のやつだし」

「違う、仮、違う!」

「落ち着けスロウ、片言になってるぞ」

「婚礼の着を交わしたんだから、正式な夫婦だっ!」

「って言われてもなぁ」


 だってお前そんな狭いとこで野郎二人が密着して寝るとか地獄以外の何物でもないだろ。

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