いまだに大好きな元カノと、文化祭の劇で恋人役を演じることになってしまった。

星乃かなた

第1話 あなたと恋人役なんて……。

「「はああああああ~!!?」」


 俺、澤村獏さわむらばくと、その元カノ姫乃紗也華ひめのさやかの夏は、絶叫から始まった。


 9月の文化祭の演劇に、主人公とヒロイン役として出演して欲しい。クラスメイトからのそんな要望に、思わず叫んでしまったのだ。


「二人とも子役だったよね?」

「プロの経験者なら間違いないっしょ!」


 文化祭実行委員をはじめとするクラスの中心メンバーが懇願してくる。まあ、彼らは俺と紗也華がかつて付き合っていたことなど知らないので無理もない。知っているのが子役だったということだけなら、俺らを指名するのも当然と言えば当然である。


「そ、そうは言っても……ねえ? 澤村くん」


 紗也華がよそよそしさを演出しつつ、俺に聞く。


「姫乃さんの言う通り。子役だったのだって何年も前の話だしなあ」


 対して俺も、角が立たぬようにやんわりと辞退の意思を表明した……のだが。


「頼む。絶対にクラスで優勝したいんだ!」


 文化祭実行委員の男子が両手を合わせ、深々と頭を下げてくる。


「みんなで一緒にやりきってさ、一生残る思い出にしたいんだよ……」


 彼の言葉を、クラス中が静かに聞いていた。


「メインの人物は印象を左右する大きなポイントになる。だから、なんとか……お願いします!」


 その言葉からは彼の強い意志が感じ取れた。周囲のクラスメイト達も、その意志に賛同するかの如く、期待に満ちた視線を俺と紗也華に向けている。


「……そこまで言われたら、やるしかないな」

「そうね」


 俺の意見に紗也華も同意する。

 直後に実行委員が「ありがとう!!」と俺と紗也華の手を握った。

 かと思えば、「これで優勝確定だー!」「よっしゃー!!」と、俺と紗也華を置き去りにみんなで盛り上がり出した。


 そんな彼らの目を盗み、ささやくような声量で紗也華が言う。


「……分かってると思うけど、みんなのためってだけだから」

「……相変わらず怖い女だな。つーか、俺もそのつもりだっつーの」

「……うっざ」


 そう言って互いにそっぽを向いた。

 そしてそのまま、俺は自分の内心に意識をかたむけた。


(嬉しい……!!)


 本心ではどうしようもなくそう思っていた。中学で別れて以来、久しぶりに紗也華と近づくことができるのだから。



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