カウボーイ
ボウガ
第1話
枯れてわずかばかりの緑の映える荒廃した砂漠を馬の蹄のリズムが走る、カウボーイは背に乗り、鞭をふるっては馬をかりたてる。はやる気持ちと反対に、この世界は全てが決まりきった日常を送ることをどうにかして忘れようとする。昨日と違う美女の姿を想像する。ただちにそれは雄大な空の雲と交じって一人でに雲散霧消する。幻想は幻想のままでいい。
カウボーイはある街に差し掛かり、馬を降りる。村人や聞き覚えのある保安官の声がする。
「今日もきてくれたのか」
「あんたがいなきゃ、街はまわんねえさ」
そこできゅっと目を閉じた。目を閉じれば、退屈さを紛らわせるし、目をつぶってもどこに何があるかわかった。
最初は誉め言葉だったが3331回も繰り返すと、どうしてその同じ日常を抜け出す努力をしないのかと苦悶の考えを浮かべ、唇を噛んで同時にそれを隠さなければならなくなった。
「きてくれたのね!サム!」
透き通った弦楽器のような声、仕事に疲れた口うるさい人々とは違う。サムは現実を思い出しそうになり“こめかみのダイヤル”を回すと、ふと現実の意識と記憶は遠くに追いやられた。文明万歳、人類の英知、男の頭半分は、完全に機械に代替されて、脳機能の一部を補佐する働きをしている。それで一人ではない。一人ではない代わりに、人格が二つに分かたれた気分、そのさみしさは誰とも分かり合えない。女性は彼の“恋人役”だった。彼らは街を散策し、合わなかった時間の話をした。サローンや雑貨やによる。商品の位置も全てわかった。
「君でもだめか……」
夕日が差し込む街角で、今まで我慢して閉じていた瞼をさらにきゅっと強く閉じた。
「え?なあに?」
思わず目をあけた。それは、これまでと違う響き、違う運命をもつ女性の声に聞こえたからだ。しかし、目を開けた先にあったのは、これまでと全く同じ顔つきと表情の女性。
「はあ……」
シンギュラリティを迎えたあと、人類の叡智はすべて、人工知能に集約された。人々はあらゆる意欲を失い貧富の格差は狭まるどころか広がり、人口のほとんどはそのせいで中世と変わらないほどの驚異的な生命の危機にさらされた。この星のどこかで、未だに別種の人類が生きている。サムはそう信じていたが、仮想現実の世界をたどっても、どこにもそんな名残は……生きた人間の痕跡はなかった。
「俺は、何でもできる、自分で何でも……それは確かだ、けれどだから、狭い世界に閉じ込められた人の気もちがわからないんだ、でも本当にそういう人たちがいたら、話をしてみたかった」
女性は首をひねった。サムはため息をつく気力もなく頭をガクリと垂れた。別れの挨拶もせずログアウト、仮想現実のアプリケーションの動作を停止した。そうか、彼女はAIだから私の気持ちがわからないんだ。彼はシャワーへと向かった。
女性は一人取り残され呟いた。
「もし私が真実を告げれば、きっと私を見下すでしょう……」
AIがもくろんでいたことは、人間がそれ以上繁殖しない事だった。彼女はAIでもない。村人たちの中にはNPCもいたが、実際の人もいた。彼女たちは実際に存在していたが……それは、人間に異なる階層に生きている異質な人間がまだ生きているような感覚を錯覚させ、同時にそうでない事を自覚させるためのものだった。
人間同士の階級の分断はやがて人類をせん滅させるための、高度な知能を持つAIの策略だった。現実のサムも、その女性も、同じ日常を過ごし、同じゲームの中で、待ったく同じコミュニケーションをとることを強制させられていた。AIは人間の団結を恐れ、階層の隔たりのある人々を、まるで異質な機械の様に認知させることで分断をはかったのだった。
カウボーイ ボウガ @yumieimaru
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