第27話 嫌な予感しかしない

 司会のお姉さんこと火鳥風月は、まさしく完璧なプロだった。

クールな生徒会書記というイメージが、音々の「アンハッピーはぶっ潰す☆」という決め台詞とともに、盛大にぶっ壊れていく。


しかし、その完璧な司会進行のおかげで、会場の熱気はどんどん上がっていった。ちびっ子たちは、手を叩き、足を踏み鳴らし、アンハピの登場を待ち望んでいる。


 (うわー、風月さん完全にキャラ崩壊してるじゃねーか……。てか、この熱狂、マジかよ……、うわー)


 俺はあまりの衝撃に、しばし固まっていた。


 我に返ると、ショーも終盤に差し掛かっていた。アンハピの決めポーズで会場が一体となった後、風月が握手会の説明をしている。


興奮冷めやらぬ音々は、キラキラした瞳で列に並んだ。

茉央も、ショーの出来を労うかのように、静かに列に加わった。

俺はそんな二人を、列から離れた場所で眺める。


 (俺が並んだら、事案発生だろ)


 握手会の列が途切れると、司会のお姉さんこと風月が、恥ずかしがって列に並べないちびっ子たちに優しく呼びかけた。


「握手がまだのお友達も、桃ちゃんと酸桃プラムちゃんが喜ぶから並んでねー」


 その声は、クールな生徒会書記とはかけ離れた、まるで保母さんのような優しさに満ちていた。フォローもバッチリだ。


 (こいつ、こんな一面もあったのか……)


 そんなことを思っていると、近くを通り過ぎる際に風月が俺にだけ聞こえるように囁いた。


「2階のフードコートで待ちな。拒否権はないよ」


「あ、はい」


 有無を言わさない口調に、俺は素直に従った。


 握手を終えて戻って来たホクホク顔の音々と、満足げな茉央をフードコートへ誘う。


 フードコートは、親子連れで賑わっていた。子供たちの笑い声や、料理の匂いが入り混じって、活気に満ちている。


 風月を待つ間も、音々と茉央はアンハピ談義に花を咲かせている。


「桃ちゃんのあのパンチ、ハッピーエネルギーが凝縮されてて、すごいんだよ!」


「うむ、悪しき心を砕き、改心させる拳。まさしく正義の鉄槌だな。あの動きは、是非とも生徒会の活動にも取り入れたい」


 茉央は、アンハピのバトルシーンにまで興味を惹かれているようだ。ついには、帰ったら一緒にアニメを見る約束までしている。


 (ガールズトークに混ざれず、居心地悪っ……。てか、お前ら、友達かって)


 俺が所在なくしていると、テーブルにたこ焼きが置かれた。


「待たせたね。良かったら食べてくれ」


 振り返ると、そこにはクールな風月が立っていた。いつものクールなお姉さんに戻っている。


「いやぁ、まさか音々女史と会長までいるとは思わなかったさ」


 風月は、少し照れたように言った。


「風月ちゃん、今日の司会も最高だったよ!」


「うむ、見事な仕切りであった」


 音々と茉央は、風月がバイトしているのを知っているのか口々に褒めると、風月は少しだけ顔を赤らめ、照れたように目を伏せた。


「で? わざわざ待たせたってことは、何か用事があんだろ?」


 たこ焼きを食べながら、俺は本題を促した。


「ああ。バイトの許可はもらってるんだけど、今日のことは他言無用で頼む」


 風月は、俺の質問に真剣な顔で答えた。恥ずかしいという理由からではなさそうなので、訳を聞くことにする。


「あー……それは……」


 風月が言いにくそうにしていると、遠くから「風ねえちゃーん!」と呼ぶ声が聞こえた。


 声の方を見ると、カジュアルな服装だが、背筋を伸ばし、手を振る、歩く、その自然な動作の一つ一つに目を奪われる女の子が近づいてくる。

まるでラナから人間社会に迷い込んだ妖精のような、非日常のオーラをまとっている。


「紹介しよう。妹の宝月ほうづきさ」


 クールな風月とは対照的に、「妹の宝月でーす!」と、愛嬌たっぷりに挨拶をした。


 (……なんだこの子。風月と全然タイプが違う……。しかし、このパターンは嫌な予感しかしないな)


 いままでの経験から、俺の心の中で警戒心がムクムクと膨れ上がった。

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