4月8日 大友誠司による独白

 桜も散り、黄緑色の芽が芽吹き始めている。

 この東小学校に来て三年。今年は六年生の担任を任されることとなった。

 六年生の担任は二度目だ。前任の学校で初めて、五年生、六年生と持ち上がりで担任を務めた。卒業式は感動で年甲斐もなく泣いてしまった。あの時は本当に恵まれていた。もともともっと田舎の小規模の学校だったし、若い教師への配慮か、問題児もいなかったし。

 今回はそうはいかないだろうな、という予感がした。まず不登校児がいる。出席番号22番、福田りつ。中性的な名前の男子。小学校四年生の頃からの不登校だと聞いている。特にイジメだのトラウマとなるような事件だのといったきっかけらしいものもなかったらしい。こういう不登校児が年々増えているとは聞いていたが、まさか自分のクラスに来るとは。まあ、親はそこまでおかしい人ではないと聞くし、時々家庭訪問する手間があるだけか。

 他には出席番号18番、戸田結香ゆいか。国語と算数と社会科の一部を支援級で過ごし、他は普通級に戻ってくる女子だ。小学校一年生の時にいつまでたっても10以上の数が数えられず、文章が読めなかったので知能検査を受けたところ、IQが70前後だったらしい。問題行動は少ないが、とにかくテンポが遅い。とはいえ現在小学校一、二年レベルの計算はできるようになったようだし、時計も読めるようになったと聞いている。あとは課題は友人関係で、同級生の友人はほとんどいないらしい。中学校に行く前に普通級に移行させてやりたいところだが、まあ難しいか。

 テンポが遅いといえば、出席番号4番の木下はな。朝は遅刻して現れ、授業中ノートはとらない、姿勢も悪い。休み時間はいつも一人で孤立しており、こちらが話している最中にぼーっと窓の外を眺め始める。髪はいつもボサボサで、しばしば口のまわりや服に食べかすが付いている。これで成績はクラスで一、二番を争うほどに良いというのだから始末が悪い。なんでも親が看護師らしく、発達障害だの起立性調節障害だのといったご立派な病名が付いている。小学校三年生の時の担任が色々、支援級の利用も視野に頑張ったようだが、結局「それほどでもない」、まあ中途半端な立ち位置で普通級で見ていかなくてはならないレベルなのだった。五年生になってからはだいぶ落ち着いたとは聞くが、とはいえ五年生の秋にも何やら一悶着あったようなので、油断は禁物か。

 しかし発達障害といえばもっと厄介なのが、出席番号1番の秋元かえで。小太りの男子だ。こちらは発達障害の診断はついていない。ついていないがまあ、木下花などよりよほど悪目立ちする空気の読めなさだ。授業中にも挙手もせずに自分の考えを語り出し授業を脱線させる。皆が盛り上がっているところにはやたらと注意したがり水を差す。前任者は彼がイジメに合っているのではないかと心配していたようだったが、少なくとも分かる範囲でのイジメはなかったと聞いている。今年も平和に終われば良いが。

 その他にも、本人は大人しいが親がモンペの小島結芽ゆめ、背が伸びてからやたらと人を威圧いあつする傾向のある瀬尾朔翔さくと、家庭環境がなかなか終わっている小林琉維るいなど、気になる子どもは何人かいる。

 まあでも、塚本いつきに栗原陽奈はるな、佐々木あおいなど成績優秀で人をまとめるのが上手い子たちがそろっているのも確かだ。学年一運動神経が良く陸上大会で昨年県大会まで行ったという松岡雄大ゆうだいがいるのも心強い。学年一の問題児と言ってもいい本人もヤバけりゃ家族もヤバい中森という男児は隣のクラスだし、それに比べればうちの問題児たちはどれも小粒で、恵まれた方なのかもしれない。そう自分に言い聞かせ、俺は空を見上げる。青い空に綿雲が浮かび、葉桜が風にそよぐ。俺の新しい一年を祝福してくれているように見え、自然と背筋が伸びた。

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