第40話:制御不能な力。俺が君たちを導く

『さあ、勇者ユウト。これが、貴方が背負うと決めた、仲間たちの運命です。貴方の役割は、その荒れ狂う力を乗りこなすための、道標となること』


ライブラの冷徹な声が、混沌こんとんの渦巻く大聖堂に響き渡る。


目の前で繰り広げられる光景は、地獄絵図そのものだった。アステラの放つ光は破壊の奔流と化し、リーベの周囲では空間が悲鳴を上げて歪み、オリビアの肉体は自らの力に耐えきれず軋みを上げ、カリスタの聖炎は、もはや彼女の制御を離れて全てを焼き尽くさんと荒れ狂っている。


仲間たちの苦悶の表情と、悲鳴。


俺は、奥歯を強く噛み締めた。


だが、俺の心は、不思議なほどに冷静だった。魂格ソウル・フレームが起動した俺の《解析瞳》は、この混沌とした状況を、パニックを誘う脅威としてではなく、解決すべき無数のデータストリームとして捉えていた。


俺の目には、彼女たちの体内を暴走する魔力の流れが、色分けされたグラフのように視える。アステラの光は、許容量を超えたダムの決壊。リーベの歪みは、バグを起こしたプログラムの無限ループ。オリビアの獣神化は、エンジンだけが暴走してボディが追いついていない欠陥品。カリスタの炎は、感情という燃料の供給が過剰になり、燃焼効率が最悪になっている状態だ。


「(……落ち着け。全員を同時に救おうとするな。それは最悪の選択だ。社畜時代のプロジェクト炎上と一緒だ。まずはトリアージ。問題点を切り分け、優先順位をつけ、一つずつ、確実に対処する)」


俺は、脳内で瞬時にタスクを整理し、解決策を導き出す。


そして、思念通信で、的確な指示を、一人一人に、叩きつけた。


「アステラ! 聞こえるか! その光を止めようとするな! 逆に、体内の魔力の流れを、逆回転させることだけ考えろ! 奔流に、逆流をぶつけるんだ! それで流れを相殺しろ!」

「リーベ! 思考を止めろ! お前のイメージが、そのまま現実に漏れ出てる! 何も考えるな! ただ、頭の中に、完璧な一つの球体を思い浮かべろ! それ以外の思考は全て捨てろ!」

「オリビア! 呼吸だ! 獣じゃない、お前自身の呼吸を思い出せ! 俺の言う通りに息をしろ! 3秒吸って、1秒止め、6秒かけてゆっくり吐け! 筋肉に酸素を送り込め!」

「カリスタ! その炎を消そうとするな! 怒りも、憎しみも、プライドも、全てその炎の燃料にしろ! そして、その炎を、正面の壁、あの一点だけに向けて、放て! 拡散させるな、収束させろ!」


俺の指示は、魔法でも、精神論でもない。


現代知識に裏打ちされた、物理的で、論理的で、そして実践的な、問題解決のためのコマンドだ。魂格ソウル・フレームを通じて放たれる俺の思念は、単なる音声ではない。彼女たちの混乱した意識を貫き、その魂に直接刻み込まれる、絶対的な命令だった。


最初は、混乱と苦痛の中で、俺の声は彼女たちに届いていなかった。


だが、俺は叫び続けた。


彼女たちが、俺を信じていることを、知っていたから。


やがて、変化が起きた。


アステラの光の奔流が、内側からの力によって、その勢いを弱めていく。


リーベの周囲の空間の歪みが、少しずつ収束していく。


オリビアの苦しげな呼吸が、規則正しいリズムを取り戻していく。


そして、カリスタの荒れ狂う炎が、一本の巨大な火柱となって、正面の壁の一点へと突き刺さった。


轟音と共に、壁が大きく抉れる。


だが、それ以上の被害は出なかった。


やがて、全ての力が収束し、大聖堂に、再び静寂が戻った。


後に残されたのは、破壊の爪痕が生々しく残る壁と、魔力を使い果たし、その場に崩れ落ちる四人の少女たちの姿だった。


彼女たちは、ぜえぜえと荒い息をつきながらも、その瞳で、ただ一人、無傷で佇む俺を、見つめていた。


その瞳に宿るのは、感謝と、そして、絶対的な畏敬いけいの念。


ライブラが、静かに俺の隣に現れる。


『見事です、勇者ユウト。貴方は、最初の試練を、乗り越えました』


俺は、そんな彼女を一瞥すると、疲労困憊の仲間たちに向かって、ニヤリと笑って言った。


「さて、と。基礎訓練は、これからだぜ」

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