挽歌-すれ違う人

見上げる頂が 静かに私を見下ろす

その眼差しに 雲海がたゆたう


戻るべきか 下る力が残るうちに

断崖の向こう 入り日が私を待っている


彼の背が 遠ざかる

夢中で登った岩場に 記憶がこだまする

踏み出す一歩に ふくら脛が軋む


「こんな所にいたのか」

驚きと懐かしさが 彼の声に滲む


日が落ちると 空気は急に冷たくなる

同じ稜線を見つめながら

私たちは 違う色に感嘆していた


ふと すれ違った登山者が

「夕暮れが綺麗ですね」と言った

私は その言葉に頷きながら

彼が見ていた空の色を 想像するしかなかった


彼はもう その空を見ていない

私はまだ その空に問いかけている

すれ違う人の言葉が

私たちの距離を そっと測っていた


まるで 別々の奥津城に眠る祖先のように

どれほど掘り返しても 見つからない骨

それでも 私は探し続ける

この山の静けさの中で

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