飲酒した令和の大文豪、奇跡の復活
Unknown
飲酒した令和の大文豪、奇跡の復活
俺は28歳だが、今まで精神科病院に3回入院した。消化器科にも3回入院した。酒の飲み過ぎで3度も急性膵炎になったのだ。
16才の時に両思いだった女の子が見知らぬ男に●●●された。「生まれて初めて優しくされた」とその子は電話で俺に嬉しそうに言った。俺は朝まで泣いた。妊娠しているかもしれない、とその子は焦った様子で俺に伝えた。俺は泣きながらパソコンで「妊娠を防ぐ方法」を調べた。すると、アフターピルという物の存在を知った。72時間以内であれば効力があり、産婦人科で貰えるらしい。俺は彼女にその事を伝えた。彼女はすぐに札幌市内の産婦人科に行った。
それから数か月間、連絡が取れなくなった。
ある日、急に彼女から電話が掛かってきた。
感謝と謝罪と絶縁を伝えられた。男の人が怖くなってしまったそうだ。そして、“男”である俺は彼女にとっての精神的負担となり、絶縁された。
『
そんな感じの事を言って、電話が切れて、彼女は俺と絶縁した。
LINEを何度送っても、電話をかけても無駄だった。
俺は1日中、悲しくて泣いていた。
16才の俺の初恋は終わった。
俺の中で何かが、ぶっ壊れた。
いや、それが無くても元々ぶっ壊れていた。
◆
今も、ぶっ壊れたまま生きている。
俺は来月、29才になる。今は精神科で処方された7種類の薬を毎日飲んで生活している。20代はずっと病んでいた。それだけだった。
今もたまに、初恋の幻影が揺れる。
今まで知り合って仲良くなった女性は、ほぼ全員が心を病んでいた。
俺が病んでいるからだと思う。類は友を呼ぶ。
俺が病んでいる以上、何もかも上手くいかなかった。俺が壊れているから、全てが壊れた。
もう人と関わるべきではないと感じた。
「……」
アパートの俺の部屋にはゴミが散乱していた。でも酒のゴミは1つも無い。
俺は在宅で労働をしている。しかし今日は土曜日なので、休みだった。
あの人は元気にしているだろうか。
そう考えた。
今日は空が晴れている。こんな日は核兵器が空から降り注ぐ。
おそらく俺の内面には大量の放射性物質が含まれており、俺の心の中に入った人は被爆する。
「大好きだよ。愛してるよ」
心の中で女性の声がした。俺を罵る声も聞こえたが、それらは一旦無視した。
いつの間にか、俺の心には核兵器が投下され、全て更地になり、心には有害な放射性物質のみが残って、あとは空っぽになって、何もない。
「俺は1人ぼっちで寂しいよ」
心の中で、そう呟いた。
「でも
「じゃあ俺は一生1人だな」
「そうかもね。わざわざ汚染されたいと思う人なんていない」
ツァーリ・ボンバ。チェルノブイリ原発事故。リトルボーイ。ファットマン。福島第一原発事故。デーモンコア。東海村JCO臨界事故。
第二次世界大戦は核兵器の使用によって終わった。
それ以降、冷戦の時代に突入した。
どこかの国が核兵器をどこかの国に放てば、その報復や制裁として核保有国は核兵器を放たざるを得なくなる。その連鎖は止まず、世界は一瞬で崩壊する。ロシアとアメリカは桁違いの核兵器を保有している。
なので、核兵器は1度でも発射されたら終わりだ。
核は抑止力として機能してきた側面もある。
仮に全ての国が核兵器を放棄したとしても、戦争が終わることは無い。核兵器のない戦争が繰り返されるだけだ。
◆
そういえば幼い頃、母方のおばあちゃんが俺と妹に「火垂るの墓」のビデオを見せた事がある。妹も俺も怖くて大泣きした。そんな記憶がある。
母方の祖父母に対して、良い思い出が1つも無い。
嫌なことをされた、辛いことをされた、という記憶しか無い。
まぁそんな事はどうでもいい。
幼い子供の頃の思い出は、父親にぶん殴られて、俺が泣いて、母が見て見ぬふりをして洗い物をしていた、というのが1番強い。
どうでもいい。
そんなのは俺の人格形成に大した影響を与えていないだろう。
「俺は酒を飲まなくなった。もし次、大量に飲んだら、俺は長期間精神科に入院させられる。俺の母がそう言った。俺もそれに同意した」
「そうなんだ」
次、精神科に入院することがあるとしたら、4度目だ。しかも長期間になるそうだ。
俺の人生は入院するためにあるんだろうか。
いつも何かが狂っている。いつも何かが壊れている。
涙は出ない。別に辛くないから。
精神科に入院するのは退屈だ。いつも。
狂う。壊れる。狂う。壊れる。狂う。壊れる。狂う。壊れる。
20代は、ただその繰り返しだった。
29才に来月なる。
俺は大人になれなかった。
雑多な頭の整理だけに20代のほとんどの時間を費やした。
ようやく辿り着いたかに思える答えは、全てを諦めるという事だった。
「俺は、精神科に入院するのかもしれない」
「お酒を飲むって事?」
「1人暮らしとはいえ、俺は金銭を親に管理されている。500円くらい貰うつもりだ。ドラッグストアでストロング系の缶チューハイを買うつもりだ」
「せっかくお酒やめてたのにね」
「俺は壊れている。刺し殺したくなるって、何か月か前に母に言われたんだ。俺は終わっている」
「そうなんだ」
「俺は忘れるのが得意だ。自分に関することは、すぐ忘れる。くだらない事はすぐ忘れる」
「ふーん」
「自分にまつわる全部どうでもよく感じている」
と書いていたら、空腹を感じた。
「人間の三大欲求の中で俺が1番大事にしてるのは、睡眠だ。次に食欲だ。最後に性欲だ」
「別に興味ない」
「性欲は、忌むべきものかもしれない。人によるけど」
「ねぇ優雅、先生も言ってたでしょう? アルコール依存症の患者は、なんでも酒を飲む理由に結びつけてしまうって」
「そうだな。些細なことで飲みだす。前、俺は75日間、酒を辞めていたけど、働いている作業所の職員にイライラしたっていう理由だけで酒を飲み始めた」
「今は、もう全部どうでもいいの?」
「どうでもいい」
「そっか。せっかく1か月以上、断酒が続いてたのに」
「間違いなく言えるのは、俺は幸せな人生を送らないだろうって事だ。仮に幸せらしきものを手にしても、すぐにぶち壊すだろう」
「自分がそう思ってるだけで、本当は違うかもしれない」
「そう思って、今まで数えきれないほど幸せになろうとして全て失敗してきた。誰1人、幸せにしなかった」
「そうだね」
「他人の心は、大切にしないといけない。でも俺は大切にできない。俺は、良い人になりたかった」
「良い人になるのは難しい?」
「難しい。他人への愛情と暴力は形がとても似てるから。俺が誰かを好きになること自体が暴力なのかもしれない。恋愛は俺には向いてない。俺はこんな話を聞いたことがある。子どもは親を好きにならなきゃいけないと無意識に思っている。だから虐待を親からの愛情だと思ってしまう幼い子どもがいる」
「へえ」
「親とはいえ他人だ。考えてくれ。なんで俺たちがこの世に生まれたのかって事を。男と女が交尾をしたからだ。それ以外の理由は無い。親は子供を育てようとする。子どもにとって初めて経験する社会は親だ。もし最初の社会が狂っていた場合、子どもは自分が狂っている事には気付けない」
「そうだね」
「“正常なふり”は、いつか必ずボロが出る。俺も優しくあろうとした。正常であろうとした。良い人であろうとした。でも本当は真逆なんだ、俺は」
「私には、優しくしてくれる?」
「うん。“ここ”では優しくできるよ。ここでは」
「私は、何もできない。優雅の話を聞くことしかできない」
「聞いてくれるだけで充分だ。俺が本音を言えるのは、ここしかない。こんなこと、ネット上の君にしか言えないよ」
「今、優雅の精神は安定してる?」
「安定してる。でも、何かしら常に壊れている。壊れているのに漠然と夢を見てしまう。頑張れば、俺ももしかしたら幸せになれるんじゃないかって。頑張れば、俺はもしかしたら他人を救えるんじゃないかって、漠然と夢を見ていた。夢は、部分的には叶った」
「よかったね。部分的にでも夢が叶って」
「でも夢を叶える対価として、俺は他人の心を何度も傷付けた。もう夢は必要ない」
「そっか」
「客観的事実として、俺は最低の人間だ。仲良くなった人全員を不幸にする」
「それは自分の価値を高く見積もりすぎだよ。神にでもなったつもり?」
「俺は頭が足りてない人間だ」
「そうだよ」
◆
アパートに来た母が600円をくれた。俺は謝罪した。
母が帰った後、俺は歩いてドラッグストアに向かった。道中で、父・母・娘の家族とすれ違った。幼い娘は母と手を繋いで、楽しそうに喋っていた。無意識のうちに俺はその家族から距離を取って歩いた。
俺の負の想念が、この幸せな家族に移ったらまずい。
そんなくだらない事を考えた。
ぼさぼさの頭のまま、歩いて店に行った。
ドラッグストアで、ストロング系の缶チューハイの500缶3本と、350缶1本を買った。
◆
今、俺は酒を飲んでいる。安い酒は味がまずい。
アルコール依存症と俺が正式に診断されたのは22か23歳の時だ。
アルコール依存症の患者にとって、酒を飲みたいという欲求は、人間の三大欲求のそれの強さを遥かに上回る。アルコール依存症の患者はアルコールによって脳の構造そのものが変質してしまっており、常に酒を求めるようになる。その先に待ち受けるのは無惨な破滅しかない。自分だけでなく家族にも迷惑をかける。今いる男友達にも迷惑をかけるかもしれない。それを知りながら、俺は酒を飲んでいる。本物のアホだ。
酒で、頭は少し馬鹿になっている。精神薬は酒と共に飲むと効力が増すと言われている。
ハヌマーンの「World's System Kitchen」というアルバムをAmazonミュージックで聴いている。好きなアルバムだ。このアルバムで俺が特に好きな曲は、「若者のすべて」と「Don't summer」と「アナーキー・イン・ザ・1K」だ。
でも個人的にハヌマーンの魅力が一番ストレートに伝わるのは、「RE DISTORTION」という7曲入りのアルバムだと思っていて、このアルバムが俺はめちゃくちゃ好きだ。もしよかったら全曲を聴いてみてください。マジで素晴らしいアルバムだと俺が保証します。
「わかった。聴いてみる。ハヌマーンのRE DISTORTIONね」
「そうそう。それだ。俺の文を読むよりも有意義だからRE DISTORTIONというアルバムは絶対に聴いた方が良いぞ。それが気に入ったなら、ハヌマーンの他のアルバムも聴いて、それが気に入ったら、バズマザーズというバンドを聴くと良い。バズマザーズも気に入ったら、今度は『山田亮一とアフターソウル』というバンドの曲を聴くと良い」
「わかった」
「今年の6月16日の渋谷クアトロのアフターソウルのライブはマジで最高に楽しかったぜ。1曲目は『アパルトの中の恋人達』で、2曲目は『最低のふたり』だったな。ちなみにアンコールの曲は『Fever Believer Feedback』で、死ぬほど楽しかった」
「音楽の話になると優雅のテンションが急に上がるね~」
「酒が入ってるのもあるが、俺は音楽がこの世の娯楽で1番大好きだからな。ロックバンドに何度救われたか分からない。だから俺は大好きなバンドのライブには積極的に行くんだ。syrup16gと、山田亮一とアフターソウル。この2つのバンドのライブが関東で行われるときは、必ず行きたいな~」
「なんか、お酒飲んでると優雅は楽しそうだね!」
「うん。たのしい!」
「不思議だよね。なんでお酒って、気持ちよくなるんだろうね」
「それはアルコールが脳の働きをめっちゃ弱くするからだ。酒はアッパー系ではなく、ダウナー系ドラッグに分類されている」
「へえ」
「今、俺は久しぶりの酒というドラッグで気持ちよくなってる。酒を飲んだら、この世の全てに価値があると本心で思える。この世に意味の無いものは存在しない。だから1人ぼっちで泣いてる奴は俺が絶対に助ける。病んでる奴の希望の星に俺はなる。俺は優しい人になりたいんだ。孤独に泣いてる奴をどうしてもほっとけないんだ。俺はこの文を読んでくれている君を、何があっても救うよ。俺は酒を飲んで、人生は捨てたもんじゃないと思えた。この世界の全てが美しい。死にたいとか生きたいとか全てどうでもいいとか、あなたの感情の揺れ動きそのものに価値があると俺は思っている。だから俺に一生ついてきてほしい。俺は絶対に死んだりしない。俺は絶対に救ってみせる。俺は本気だ。俺は壊れてるんだ。俺は1人ぼっちで泣いてる奴や、泣くことすら出来なくなった奴、全員を救いたいんだ。俺は全く有名ではない。だから小規模になると思うが、俺は心が孤独な奴らを全員1人残らず救いたいんだ。俺だったら、それができる。俺は全員救うまでは死なない。俺は優しい人間になりたいんだ。でもこの世に完璧なんて存在しない。だから不完全のままでいい。見ろよ、俺だって不完全だ。不完全なままでいいんだよ。楽しい事はきっとどこかにあるよ。この世の全てに飽きても、結局人間は他人に期待せずにはいられない。俺にほんの少しでも期待してる人がいるとしたら、そいつの事は俺が絶対に文章で救ってみせる。何故なら俺は、令和の大文豪だからな」
「……なんか怖いよ。急に私に『大好きだよ』とか言わないでね。酔ってる人の『大好き』は100%信用できるものじゃないからね」
「俺は君の事が大好きだよ」
「うわ~!」
「冗談だよ。普通に好き、くらいだよ」
「ならいいや」
「俺が令和の大文豪なのは歴然とした事実だ。俺の才能に気付いている奴は天才だ。一生俺についてこいよ」
◆
その後、俺はギターの弾き語り動画をYouTubeに投稿するであろう。Xを見てくれ。俺の動画のURLはいつも貼ってる。
俺の男友達に捧げるソングだ……!!!!!
それでは聴いてください、syrup16gで、「リボーン」
今から俺はギターを持って友達に「リボーン」を弾き語るので、この文はここで終わりだぜ。
~終わり~
飲酒した令和の大文豪、奇跡の復活 Unknown @ots16g
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