第8話 現実となった世界で

契約の光が消えたあとも、しばらく視界は眩しさに焼かれていた。

石畳に描かれた魔法陣は静まり返り、もう何の反応も示さない。

けれど、俺の胸の奥では確かな温もりが生まれていた。

それは、ティナと結ばれたという証。

彼女の小さな手の感触が、まだ残っている。


「……これで、終わったんだよね」


ティナがぽつりとつぶやく。

その声は安堵と不安が入り混じっていて、震えていた。

俺は苦笑してうなずく。


「契約、完了。ほら、俺はちゃんとここにいるだろ?」


そう言って手を広げてみせると、ティナは一瞬きょとんとした後、ふっと小さく笑った。

それは泣きそうで、でも少し嬉しそうで……俺の胸をやけに締め付ける笑顔だった。


「ありがとう……」


「お、おう……そんな深刻に言われると、こっちが照れるんだけど」


軽口を返すと、ティナの目が大きく見開かれる。

その後、少しだけ頬が赤くなった。

……やばい、可愛い。

俺は心の中で頭を抱える。これは推しが目の前で照れてる現実。尊い。

けれどティナは、すぐに不安そうに俯いた。


「でも……本当に大丈夫かな。私なんかと契約して、あなたに迷惑がかからない?」

その「私なんか」という言葉に、胸がチクリとした。


「ティナ」


「……」


「迷惑とか言うなよ。俺はティナがいいんだ。他の誰でもなく」


そう言った瞬間、彼女は驚いたように目を瞬かせ、今度こそ涙を溢れさせた。


「……そんなふうに、言ってくれる人……いなかった」


ぽろぽろと落ちる涙を拭おうと、俺は思わず手を伸ばす。

ティナは一瞬びくっとしたけど、逃げなかった。


「俺はティナの味方だから」


「……ほんと?」


「ほんとだ」


短い会話。でもそれだけで、契約の光よりもずっと強い絆が生まれた気がした。

ティナは小さくうなずいてから、ふっと微笑んだ。

けれどその笑顔の裏に、まだ影があるのを俺は見逃さなかった。

――禁術で結ばれた契約。

もしそれが周りに知られたら、きっとただでは済まない。

ティナも、それを理解している。

だからこそ、彼女は言葉を飲み込んだ。


「……見捨てないでね」


かろうじて絞り出したその言葉は、弱々しいのに重かった。

俺は即答した。


「見捨てるわけないだろ」


その瞬間、ティナは俺の袖をそっと掴んだ。

まるで子どもみたいに。

けれどその小さな仕草が、胸を張り裂けそうにさせた。

――ああ、もう決まったんだな。

俺の役目は、ティナを救うこと。

そして、この世界でティナの隣に立つことだ。

彼女が俺を必要とする限り、俺は何度だって支える。

そう、契約は始まりじゃない。

ここからが、俺とティナの物語なんだ。





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