第2話 光のような人 前編
アリスは、いつだって私の隣にいた。
そして同時に、いつだって私の前を歩いていた。
幼い頃の記憶を辿れば、必ずそこにアリスの笑顔がある。初めて剣を握った日も、読み書きを覚えた日も、森で転んで泣いた日も。気づけば私は彼女と一緒にいた。
「ティナ、大丈夫? 怪我してない?」
そう言って私の膝を覗き込んだときの、透き通るような声を今でも覚えている。その声は、いつも光のように温かくて、私の胸に沁み込んでくる。
けれど、その光は時に残酷だった。
私たちが最初に学んだのは、精霊に祈りを捧げる術だった。呼吸を整え、心を澄ませ、世界と繋がる。小さな子供でも扱える、最も基本的な精霊術だ。私は必死に集中した。目を閉じ、声を震わせながら詠唱を唱えた。——ぱち、と。小さな火花が手のひらで弾ける。
「……できた……!」
その瞬間の喜びは、胸が熱くなるほどだった。
でも隣を見れば、アリスの手には小さな光の蝶が舞っていた。淡い光を放つその蝶は、私の火花よりも何倍も綺麗で、先生も、周りの子どもたちも目を奪われていた。
「すごいぞ、アリス! 初めてでここまでやれるとは!」
「きっと将来は偉大な精霊使いになるわね」
褒め言葉は、全部アリスに向かっていた。私が火花を出せたことなんて、誰も気づいていなかった。
年月が経つほど、差は広がっていった。学問ではアリスが一番。剣術でもアリスが一番。精霊術も、走るのも、歌うのも。私は二番。いつも、二番。
最初は悔しくて、夜中に布団をかぶって泣いたこともあった。でも、泣けばアリスが駆けつけてくれる。
「ティナ、大丈夫。きっと次は勝てるよ」
そう言って私を抱きしめてくれる。その優しさが、嬉しくて、苦しくて、たまらなかった。だって私は、本当は——勝ちたかったのに。
村の大人たちは口々に言う。
「アリスは天才だ」
「英雄の器だ」
「この子がきっと国を救う」
そして、私に向けられる言葉はいつも同じだった。
「ティナも、まあ……悪くないな」
「でも、やっぱりアリスには及ばないか」
——“アリスには及ばない”。その言葉は、呪いみたいに私の心にこびりついた。努力しても努力しても、一番にはなれない。私は光の隣に立つことすら許されない影なのだと。
だけど、それでも私はアリスの隣にいた。離れられなかった。アリスの笑顔は、眩しくて、優しくて。彼女が手を差し伸べてくれるたび、私は「また頑張ろう」と思ってしまう。たとえ結果がわかっていても、何度も何度も挑んでしまう。私にとってアリスは、憧れであり、希望であり、同時に——超えられない壁だった。
だからこそ、心に決めた。十五歳の誕生日を迎えたとき。精霊との契約を果たすその日に。「今度こそ、私は勝つ」そうすれば、誰かに見てもらえる。アリスの隣に立てる。ただの“影”じゃなくて、光に届く自分になれる。私はその日を夢見て、必死に努力を重ねた。
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