恋する想いをあなたに。

波羽 紗羅

第1話 その1

ジェットコースターのような

恋をした。

あれは、何年前のことだったろう。

あの恋はあの恋で、


あたしは、

一生懸命だったのだと思う。


そして、久しぶりのこの想いに、

戸惑っている…。



*******



あの恋が終わった時、

もう、恋なんて二度としない。

身分違いの恋なんて特に!

なんて、思っていたのに。


あたしは、馬鹿なのかな。

あの恋が終わってから、

優しくて。

ずっとそばにいてくれた

あの人にいつの間にか惹かれてて。

この時間が、長く続くように

なんて思ってしまうんだ。


今も、あたしの前で、

優雅に紅茶を飲んでいるあの人は、

ちらりと見たあたしに微笑んでくれる。


こうやって、カフェに行こうって

誘われるようになって、

あたしは、嬉しかったんだ。


いつの間にか、一緒に居ることが

自然になっていって。

言葉がなくても、居心地なんか

悪くなくて。

あいつとの時みたいに、

一触即発な雰囲気になることもなく。

穏やかな時間が過ぎていくのは、

とても心地が良いことだった。


でも…。

それは、あたしの夢であって。

長くは続かないと思って、

覚悟は決めていたんだ。


だって、君島さんには、

沢山のお見合い話がやってきていて、

現に断れないお見合いだってある。


君島さんは、あたしにどこの誰の

お嬢さんと会ってくると言って、

バリアフリーにしてくれているけれど。

それが、私への君島さんの優しさ。

時には、残酷である気もするけれど。

知らないでいて、街でばったり会って

しまうのと、そうでないのとでは全然違う。


一度、会ってしまってからは、

あたしはいやな気持ちにならないように、

君島さんがお見合いの日は、ウチに引きこもり

もしくは、近所の商店街だけに行く日が

続くようになった。



*******



携帯が鳴る。

ディスプレイを見て、フッと笑って、

ボタンを押した。


「よお。絢乃ちゃん。」

「何?」

「今日、稽古入れたいんだけど。」

「無理。」

「なんでよ。」

「今日は無理。」

「理由は?」

「あたしは、外に出れないの。」

「だから、なんで?」


ブツブツブツ。


「聞こえねーよ。」

「あの人に会うのがイヤだから!」

「ああ。それか。」

「ふん。」

「じゃあ、迎えに行ってやるよ。」

「お迎えに来てもらうなんて出来ません。」

「わがままだなぁ。」

「ふん。」

「じゃあ、迎えをやるから。」

「だから!」

「美味しいお菓子が手に入ったから。」

「分かった。」


あたしは、しぶしぶと了承した。


そして、30分後、ドアフォンが鳴った。


「はい。」

「西脇です。」

「はい。」


あたしは、鍵を開けて、ドアを開ける。


「あれ?西脇さん。自ら。」

「そ。自ら。」

「良かったのに。」

「まあまあ。用意は出来てる?」

「はい。」

「じゃ。行こう。」


あたしは、バックと鍵を持って、

廉太郎に続いた。

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