世界ノ循環

Zamta_Dall_yegna

世界ノ循環


 この地には魔法が存在する。炎を操る魔法や相手を拘束する魔法、眠らせる魔法等、様々な種類があった。皆は、それらを覚えて習得し、中でも優れているものを使って、働いていた。そんな中で、私は浮遊魔法しか使えなかった。原因は不明で、調べても同じような症状に当たる人がいなかった。


 アタシは、街で一番高い塔の上に来ていた。眼下には、中世ヨーロッパのような街並みが広がっている。他の魔法は使えないが、浮遊魔法を極めて、こういうことができているので、結構満足している。


 塔の中は人気がなく、いつも静かだった。日が傾いて寒くなったきた。中に入ると、いつもは閉まっている扉が開いていた。黒い重厚な扉の先には本棚がある。アタシは好奇心に負けて、先へ進んだ。

 本の表紙には『世界ノ循環』と書かれていた。かなり古いものらしい。ところどころ文字が掠れており、埃をかぶっている。はたいて中身を見ると、ところどころ黄ばんでいた。今まで感じたことのない魔術を感じる。アタシはそれに魅了されて、本を一気に読んだ。


****

 その昔、人は他人の首を絞めて生き長らえていた。ただ、生きたくて、快適に生きる環境が欲しくて。本当にそれだけだった。


 人々はいつしか贅沢をするようになっていった。それは、物質が、環境が、技術が生まれて生活に余裕ができたからだ。


 どんどん怠慢と強欲に飲まれた人々は、いつしか舵を失った。何か自分に特別なものがないかを探し求めて、さまようようになったのだ。それだけでなく、自分はお綺麗で純白な生き物であるかのようにふるまった。いつかの血にまみれた手のことも忘れて。


 悪意は電子空間を通じて伝染し、人々の心に巣食った。そしてまた、人々は他人の首を絞めて生き長らえることになる。その繰り返し。苦しくても痛くても、いずれ治ってまた再発する。なにも変わらないし、変わる理由もない。ただただ巡回するだけだ。

****

 「アタシの手は血に塗れているの…?」

 思わず口に出した。それほど衝撃的だったのだ。すると、ガチャリと扉が開き、ガタイのいい中年の男性が入ってきた。鎖帷子に銀色の兜をつけている。警備員のような風体の男だ。


 「何をしている!ここは立ち入り禁止だぞ」

 「何も書いてませんでしたけど」

 「だが、ここは立ち入り禁止区域なのだ。それに、君の持っているそれは禁書じゃないか。読んだのか!」

 「待って下さい!話を聞いてください!」

 目を真っ赤にして襲ってくる男を避けつつ、アタシは高く飛んだ。そして、町から外に出た。


 ここは水の都。人々は船を使って移動をし、生活している。それを見かねたアタシは、大道芸人のように浮遊魔法を披露し、教えた。すると、人々の生活水準は上がり、これまで起きていた水難事故が格段に減った。アタシは感謝されて、町長から家を与えられた。


 ある日、元いた町が浸水して、住民が外を歩けなくなった。すると、その町の町長がやって来た。

 「お願いがあります。我らが民のために、浮遊魔法を教えては下さりませぬか。今、我らの町は浸水し、人々は外に出られずにいるのです」

 アタシは内心複雑だったが、浮遊魔法を教えることにした。町長に案内されて元いた町に戻ると、話のとおりに地面が水で埋まっていた。町の警備員達が、以前は丘だった場所に集められた。アタシは彼らと町長に浮遊魔法を教えた。

 「ありがとうございます!これで水難事故も減ることでしょう」

 町長はそう言うと、アタシの手に報酬金を乗せてきた。その後、アタシが町を出ていく元凶になった、警備員がやってきた。

 「前は悪かったな。どうだ、良ければ君の自宅まで案内しよう」

 彼は馴れ馴れしくそう言うと、アタシの腰に触れてきた。アタシはそれを払い除けて、彼を睨むように見た。

 「『人は他人の首を絞めて生き長らえていた』、アタシもあなたもそう。薬も、技術も他人の命を削って生み出された結晶なのに、感謝もせずに消費して生きている」

 「だからなんだ」

 「一緒に罰を受けましょう。なに、時期になれるわ。苦しみにも、痛みにも」

 地上を歩くと激痛が襲う魔法をかけた。地面に足をつけていた彼は、痛みで顔を歪めた。アタシはそれを一瞥して、その場を去った。


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