第15話 自分を追い込み、厳しすぎる少女|晴れの国の清音姉妹
授業が終わった放課後。
いつもうるさい女子校の教室だけど、今日は少し違う騒がしさ。
なんせ中間テストが返ってきたから。
私は自分の結果に何一つ納得がいかない。
それどころか悔しさで暴れたいくらいだ。
「夕夏どうだったー?」
隣の席の友達が私の机の上にある答案用紙を、ひょいっと覗いてきた。
「うわ、すご。これ平均どのくらい?」
「……85点くらいかな」
「私の倍じゃん」
今聞いて逆の意味で驚いたよ?
「それ赤点じゃない?」
「3つくらいね」
なぜ少し偉そうなのだろう。
期末のときは少し手伝ったほうが良いのかな、後輩になられても困る。
「はぁ、とりあえずバイト行くわ」
「あいかわらずよく働くね―。いってら」
手を振る友人に振り返しながら私は教室を出た。
テスト期間は休んでいたから頑張って稼がないと。
バイトが終わって外に出ると、すっかり暗くなっていた。
涼しくなった夜の風を受けつつ自転車を漕いで家へ帰る。
バイト中も悔しくて仕方なかった。
冷たい風を受ければ少しは冷静になれるか。
そう思ったけど未熟な私には無理だった。
「おかえり。お疲れさま」
玄関を開けると真昼ねえが出迎えてくれた。
私がバイトから帰ると、いつもこうしてくれる。
なんとも律儀な姉だよ。
「ご飯食べる?」
「ありがと。ちょっとやることやってからもらうね」
私は気もそぞろに部屋へと入った。
制服姿のままカバンからテスト用紙を出して机に並べる。
平均85点。
間違いなく学年上位で、私としても相当良い成績だ。
でもこれじゃだめなんだ。
英語ライティングと数3で一問ずつケアレスミスがある。
難しくて解けなかった。
それなら実力不足だと反省できる。
でも、スペルを書き間違える、簡単な計算を間違える、それはあってはならない。
「……あっ」
力を入れすぎてシャーペンの先が折れてしまった。
汚れたノートを消しゴムで消していると、無力感が襲ってくる。
さっき玄関で出迎えてくれた姉。
真昼ねえは仕事で忙しいのに毎日早く帰って来る。
3人でご飯を一緒に食べるために。
両親がいない私達。
残された家族だからこそ、一緒の時間を大切にしたい。
いつかそう言っていた。
その姉の部屋の電気は、姉妹の誰よりも遅くまで消えない。
中からはずっとパソコンを操作する音がしているんだ。
姉がそこまでしてくれているんだから、私もなすべきことをしないと。
公立校とはいえ、学費は安くないんだ。
その時、小さなノック音が後ろのドアからした。
「はい?」
入ってきたのは真昼ねえ。
手にはマグカップを持っていて、そこからコーヒーの香りがしてる。
「はいこれ、ノンカフェインだから」
ことりとマグカップと、小さなチョコパイケーキを置いてくれた。
「そっちは花夜から」
それだけ言うと、おやすみと部屋を出ようとして扉の前でふと止まった。
踵を返し、私の眉間にぺっと指を立てる。
「シワが寄ってる。可愛い顔が台無しよ」
今度こそ姉が出ていった。
私は苦いコーヒーを飲んで、甘いチョコをかじった。
チグハグな応援だな。
ちょっと笑っちゃった。
閉めた扉の外。
私は暗い廊下で、妹が努力する音をしばらく聞いていた。
止むことがない紙をペンが走る気配。
とても心地よくて力強い。
私に負い目を感じて無理をしているのは知ってる。
そんなこと気にしないで。
そう言うのは簡単だ。
でもあまりに無責任。
思春期の女の子が誓いを立てて前に進んでるんだ。
転びそうになった時は抱きとめるから、頑張ってみたまえ。
「ギャルみたいな見た目なのに、誰よりもド根性か」
夕夏を見てると私も負けれないなと思ってしまう。
「私も仕事にもどろ」
晴れの国の清音姉妹 @okayamamikoto
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