おかんと、猫の福

たけぞう

第1話 福とおかん 

ガタガタと、玄関の古いガラス戸が開く音。


とある地方の田舎町、大黒市寿町。

平屋建ての借家にひとり住む小田和子は、

今日も朝からせっせと玄関の掃き掃除をしていた。


「ふぅ、ほんますぐに汚れてしまうわ」


腰に手を当てて一休みした時、

向かいの路地の隅に置かれた段ボール箱に気が付く。


「なんや、あんなとこに段ボール箱なんて・・・」


和子が段ボール箱に近づくと、中から小さな鳴き声が聞こえてきた。


「もしかして・・・」


フタを開けてみると、そこにいたのは白黒模様の子猫だった。

子猫の体は小さく痩せており、助けを求めるように、か細い声で鳴いていた。


「お前、どしたん・・・」


和子がそっと手を差し出すと、子猫は体をすり寄せて必死に鳴いている。


「かわいそうに・・・こりゃ、ほっとけんな」


和子は子猫を段ボール箱から出し、胸に抱えて家に入った。



その日、和子の家には新しい家族ができた。

名前は、「福」。


白と黒のハチワレ猫で、鼻の所には

まるで口ひげのように見える黒い模様がある。


「なんかええこと、運んできてくれそうやんか」


和子が福の顔を見て、即決した名前だった。



こうして和子と福の、

小さくて、でもあたたかい日々が始まるのだった。




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