12話 特級試験の条件


 ギルドを出ると、外はすでに夕暮れ時だった。

 昼間に比べると人通りも少なくなっており、出店などは店じまいをしていた。

 俺は帰り道、ロミオへあることを尋ねていた。

  

 「なあロミオ、特級クラスの連中はみんな、あれくらい強いのか?」


 「うん、レオさんが王国最強と言われているんだけど、……他の人たちも引けを取らないくらいの実力を持っているらしいよ」


 「そうか」


 俺は嬉しく感じていた。

 レオたちに会ってから、ずっと俺の胸は高鳴り続けている。

 できることなら、一度手合わせをしてみたい

 そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回っていた。


 そして、レオのような強者が他にもいると思うと、……武者震いが止まらない。


 「特級クラスは他に何人いるんだ?」


 「この国では6人だね。そのうちの5人は、国王陛下の直属部隊に入っているよ」


 「火ノ隊とかいっていた、あれか」


 「うん、それぞれ火、水、雷、風の4つの隊があって、それぞれ特級騎士・特級魔法師が隊長をしているんだ。火ノ隊だけ特級クラスが2人いるんだけど、他の隊はそれぞれ1人ずつだね」


 ギルドでのさきほどの様子を見ていると

 火ノ隊だけ特級クラスが2人いる理由は明白だな。


 「6人目の特級クラスは何をしているんだ?」


 「6人目は僕たちの学校の理事長だよ」


 「そ、そうだったのか」


 知らなかった。

 レイラ教官からもそんな話はなかったし。


 「理事長も昔は、火ノ隊の隊長を任されていたみたいなんだ、・・・なんでもSS級モンスターのフェニックスを1人で倒したとか、・・・フェンリルの群れを一瞬で消し炭にしたとか、いろいろと逸話があるらしいよ・・・」


 「相当の実力者ってことだな」


 「そうだね」


 そんな話を聞かされ、俺はますます、特級騎士に興味がわいていた。

 おそらく、下級騎士の俺が、特級クラスに勝負を挑んでも

 そもそも相手にしてもらえないだろうが……特級騎士にさえなれば

 チャンスはあるんじゃないだろうか。

 真剣だろうが摸造刀だろうがなんでもいい、あいつと……レオと勝負をしてみたい。

 もともと特級騎士はS級クエストに行くために目指したものだが

 他にも目指す目的ができたみたいだ。


 「よし! 俺は絶対、次の試験で特級騎士になるぞ!」


 俺は高まった気持ちを抑えきれず、空高く拳を掲げていた。

 そんな中、ロミオが隣から少し控えめな小さな声で話す。


 「ユーリ、その、……特級試験を受けるための条件は、レイラ教官から聞いてる?」


 「条件? そういえば、レイラ教官がそんなことを言っていたような……」


 ロミオは申し訳なさそうに、俺から視線を外し、俯いた。


 「えっとね、言いにくいんだけど、特級試験を受けるための条件はね、……S級クエストを1回クリア、……もしくはA級クエストを5回クリア、このどちらかを達成していることが試験を受けるための必須条件なんだ」


 ……そうなのか。

 だが、ロミオの話から俺はある疑問を抱いた。


 「S級クエストは特級クラスじゃないと受けられないんじゃないのか? それにA級クエストだって、上級クラスじゃないと受けられないんだよな?」


 「うん、そうだね。だからほとんどの人は中級試験を受けて中級クラスになった後、次に上級と段階を踏んで上級クラスになってからA級クエストを5回クリア、そして特級試験に臨むって流れがほとんどだね」


 ……ロミオが申し訳なさそうに言っていた理由が分かった。


 「つまり、俺のような下級騎士見習いがいきなり特級試験を受けるってことは、まず不可能ってことか」


 「うん、……そうなるね」


 俺のように、特級クラスになりたいと考えている下級クラスが

 誤って命を落とさない為にも、試験を受ける条件を設けているんだろうな。

 ……だが!


 「俺に考えがある!」


 俺は胸を張り、胸の前に握り拳を作ってロミオに見せた。


 「え?」


 ロミオは顔を上げ、俺に視線を合わせた。


 「さっきギルドで言っていたことだが、上級クラスのやつとパーティーを組んで、そいつにA級クエストを受注してもらい、俺たちも一緒にA級クエストに行けばいい! よし、これで解決だな!」


 うん、我ながら名案だ。

 上級騎士や魔法師なら、学生でもなっているやつはいるだろう。

 そいつらに、声をかけてパーティーに入ってもらえばいい。

 これを名案と言わず何と言うんだ。

 ……俺の考えは浅はかだろうか?


 「た、確かにそうだけど……。ユーリ、さっきも言ったけど、下級騎士と組んでくれる上級騎士なんて、たぶんいないと思うよ」


 ロミオは少し不安そうな表情で続ける。


 「それに、僕たち1年はみんな同じ下級クラスだから……2年生か、3年生の上級生と組むしかないんだけど、……貴族出身ばかりのこの学校は、上下関係も厳しいから、……それこそ相手にしてもらえるか、どうか」


 「そんなときは、決闘だな」


 「えっ? ユ、ユーリ?」


 ロミオは少しあたふたと動揺していた。


 「決闘は、確かお互いの何かを賭けて戦うって言ってたよな。つまり俺が勝てば、パーティーに入ってもらうっていう条件を賭けて決闘するんだ。そして勝って向こうは有無を言わさずパーティーに入ってもらう……という寸法だ。うん、我ながら名案だぜ」


 「そ、それは、かなり強引なんじゃ……」


 「だが、俺は早く特級騎士になりたい、いやならなくちゃいけないんだ。多少強引でも使えるものは何でも使っていくぜ……フフフ、フハハハ」


 「ユ、ユーリ……少し怖いよ」


 ロミオが本気で俺を怖がっていたので、一応訂正しておいた。


 「まあ、半分冗談だよ。よほど相手が俺たちとパーティーを組みたくないのなら、無理には組まないさ」


 「うん、ならいいんだけど」


 ……とは言ったが、次の試験で特級試験を受けるには

 やはり上級クラスをパーティーに入れてA級クエストに連れていってもらうしかないよな。

 俺に知り合いや伝手があるわけでもないし。

 まあ、明日の空いた時間にでも校内の上級クラスのやつらを少し覗いてみるか。

 そうこうしていると、すっかり夕日も落ち、俺たちは家路に着いた。

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