第44話 追撃が止まらない

VIP席。

シャンパンの泡が静かに弾けていた。

ルナの席だけ、グラスが次々と立ち上がっていく。


(“ニッチマーケティング”。狭く深く。

高単価客を掴めば、他は追随する)


その様子を遠くから見ていた秋が、声をかけてきた。


「月子さんのやり方、数字の理想形ですよね」

「ありがとう」

「でも……ひとつ気づいたんです」


秋の声に、わずかに“反論”のトーンが混じっていた。

「高単価への一点集中は、脆い」


ルナは眉を動かす。

「つまり?」

「私は……分けて積み上げます」

「ひとりに深く刺すより、五人に“少し残る”ほうが安全です」


秋はスマホを取り出し、送信履歴を見せた。

“昨日のネクタイ、光の角度で色が変わって素敵でしたね。”


「返信がなくても、いいんです」


「記憶に残れば、それで勝ち。

“他人に見られていた記憶”って、静かに残るんです」


黒服がドアを開けた。

「秋ちゃん、指名入りました」

秋は小さく微笑む。

「ほら、“数字”に繋がった」


《Q.E.D》開演

19:00台

月子:ボトル1=50,000

秋:5人×1,000=5,000

→【月子WIN!(差額45,000円)】


21:00台

月子:1人の客対応 ( 50,000 )

秋:既読4/各1万=40,000

→【月子WIN!(差額10,000円)】


秋はスマホを見て、口元をわずかにゆるめた。

「……あ、来た。」


入口のベルが鳴く。

スーツの上着を脱ぎながら、常連の営業部長が笑った。

「秋ちゃん、LINE見たから来ちゃったよ」


「うれしい。覚えててくれたんですね」

秋は自然な笑みでグラスを差し出す。

「今日も、前回と同じ銘柄にします?」


男は頬を緩め、

「うん、それがいいね」と言いながら手を上げた。


「黒服さん、あのボトルもう一本ね」

「かしこまりました」


新しいボトルが開く音。

秋の“既読”が、現実の数字に変わった瞬間だった。



22:00台

月子:1人の客対応 ( 50,000 )

秋:既読2/各5万+既読1/3万=130,000

→【秋WIN!(差額80,000円)】




VIP席のシャンパンが、ひとつ弾けて消えた。 ──秋の追撃が、止まらない。


【現在ステータス】

資金:355万円

残り:645万円/230日




この作品は月・水・金・土 21:00に毎週更新します。

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