第24話 違和感
──翌晩。
フロアはいつものようにシャンデリアが光を散らし、笑い声とグラスの音が重なっていた。
だが、ルナの前に座った客は、他の男とは明らかに空気が違った。
中年のスーツ姿。
ネクタイはきちんと締められているのに、その目は妙に潤んでいて、こちらを凝視していた。
「……月子ちゃん」
「はい」
「昨日の配信、全部見たよ」
ルナの指がぴくりと止まる。
(……配信?)
男は胸ポケットから小さなノートを取り出した。
ページを開くと、そこにはびっしりと書き込み。
──《客数 × 単価 × リピート率 × 継続》
ルナが配信で語った数式まで、几帳面に――『呪文のように』繰り返し書き写されていた。
「君はすごいよ。他の子は笑顔とか酒とか、そんなものしか持ってない。
でも君は“頭”で戦ってる。……本当に特別だ」
ルナは営業用の笑みを浮かべながら、心の奥で冷たいざわめきを覚えた。
(……やっぱり昨日のコメントの人だ)
「ありがとうございます」
男の名は江口 卓也
名刺の角が磨かれていた。社章ピン。指には油の匂い。
「僕は全国4000店舗の人間を抱えている。
月子ちゃんが言う“数字の大切さ”を部下達にも教えたい。」
江口はそう言って、微笑んだ。
その笑顔には、悪意も嘘もない。
ただ、常識が違うだけ。
笑い方で業界がわかった。
「僕、独身でね。
寂しい夜に月子ちゃんの言葉を聞きながら眠ると安眠出来るんだよ」
「そんな、大袈裟ですよ」
江口はノートの角を指で撫でながら、呟いた。
「……それにね。今後、月子ちゃんの言葉、今度身体に彫ろうかと思うんだ。
ずっと忘れないように。
どこに彫ればいいと思う?」
ルナの笑みが一瞬止まった。
グラスを持つ指先がわずかに震える。
(……冗談、なのか?)
目の奥の光は笑っていなかった。
ルナの違和感は強まった。
「これから毎日来るね。月子ちゃん」
バックヤードでは、店長と佐川が低い声で話していた。
「……あの江口って客、やばい匂いしますね」
「わかってる。本来なら出禁だ。けど、あれだけ金を落とす客を切るのは惜しい」
佐川が煙を吐いた。
「月子、お前はどうしたい?」
胸の奥で警鐘が鳴る。それでも、頭の中では“残り金額”の数字がちらついていた。
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