第14話 知恵は身を滅ぼす
「愛鈴、アンコウの攻略法がわかった!」
叫ぶ僕に愛鈴が走り寄る。愛鈴に新しい作戦を伝えた。愛鈴の反応は僕の予想通りのものだった。
唖然。そういった表情だった。
「危険なのはわかってる。でも、やってみる価値はあると思うんだ。この作戦は仕留める側の方がリスクが大きい。僕が仕留めるから愛鈴は……」
「よし、アタシが仕留める!」
「は!?」
愛鈴が明るく言い放つ。今、僕達の表情は逆転しているだろう。それくらい衝撃だった。
「ちょっ、愛鈴!僕はさっき言ったよね!?この作戦は仕留める側の方がリスクが大きいって!だから言い出しっぺの僕がやるべきだよ!」
「アタシはそうは思わねぇ。この作戦は一度失敗すれば二度目はないものだ。なら、成功率の高い方がやった方がいい。アタシの方がテメェよりも身体能力はいい。なら、アタシがやる方が得策だ」
愛鈴は淡々ととした口調で説明する。そこまで言われると僕も反論できない。僕は口をつぐんだ。
「テメェにばかり危ねぇことはさせられねぇ。アタシにもカッコつけさせてくれよ」
愛鈴はこちらへ微笑みかけ、大剣を持ち直し、また真剣な目でアンコウを睨んだ。
「実行するには上手く人間を離してもらわないとな」
愛鈴は大剣を構える。
「安心しろ、力加減はわかっているつもりだ」
そう言った後、愛鈴はアンコウの懐に勢いよく飛び込んだ。四方八方から繰り出されるロープを軽々と躱し、アンコウの力強い攻撃にも臆さない。
ただ一つのセンサーから目を離さない。
「えっ、な、なんで?い、いやだ!やべで!!」
「悪いな。少し眠っててくれ」
攻撃の隙を伺い、一瞬で被害者の元まで間合いを詰める。そしてゴッ!と頭を殴った。被害者は完全に気を失った様で、腕をだらんと垂れ下げ、一言も声を発さない。
アンコウもそのことに気がついた様で、まるで母親を失った子アヒルの様に周辺を行ったり来たりしている。センサーが機能しなくなったことでどこに動くべきかわかっていないのだ。
しばらく動き回った後、アンコウは急に動きを止め、頭上のロープを緩めた。
「よし、離した!」
完全に気絶し、何も反応を示さない人間をもうセンサーの役割を果たせないと判断したのだろう。そのまま吊るしていた人間をボトリと離した。上手く狙い通り動いてくれた。あとはこのまま……
「アグッ!!」
「愛鈴!」
被害者を離した途端、アンコウが頭上のロープを愛鈴に引っ掛ける。ロープを締め上げ、愛鈴の首を吊った。幸い、咄嗟に左腕を隙間に入れたおかげか呼吸はできている様だ。
「ウッ!まさか、ここまで……
——————上手く行くとはな!!!」
そう、愛鈴の首を吊らせる。これがこの作戦の狙いだ。アンコウは完全に吊るした人間のセンサーに頼り切っている。そのためか周囲の廃魚の気配に気づかず、人間の声の反響で壁や敵を判断している。そんな大切なセンサーが無くなれば新しいものを付けるだろう。
吊るした人間は大事な大事な命綱。まさか自分の命を繋ぐために取り付けたセンサーが自らの命を奪うとは思わないだろう。
「やれ、愛鈴!!!」
「任せろ湊!!!」
宙に浮かぶ愛鈴の足を思い切り上に押し上げる。愛鈴の体はロープを軸に弧を描きアンコウの背に立つ。右手にはピラルクの大剣を持ち、それを思い切り振り上げる。
「この時を待っていたぜ、クソ廃魚!!!!」
そして大剣を脊髄へ、突き刺した。
思い切り深く、今までの恨みだとでも言う様に、完璧に急所へ刺した。しかし、アンコウにはまだ意識があった。
「ア"ッ、ガハッ…ァ!!!」
暴れ回り、壁を体を打ちつけ、頭上のロープをこれでもかと締め上げた。
愛鈴の左腕から鈍い音がする。だが、アンコウは愛鈴の命を刈り取る前に事切れた。身につけた知恵が仇となり、自らの生命を途絶えさせた。
「愛鈴、大丈夫!?」
「ゲホッ、ゴホッ……ああ、平気だ。左腕は完全にイカれたがな」
愛鈴に駆け寄り、ロープから救出する。首には痛々しい跡が残り、左腕は垂れ下がっていて赤紫色に腫れ上がっている。けれど、生きてはいる。それだけでも充分だろう。
「早く戻ろう。環木さんならきっと綺麗に治してくれるよ」
「そうしたいのは山々だが、アタシ達にはまだやることがあるぜ。ここにある死体、全部回収だ」
「は?」
一瞬、理解ができなかった。ここにある死体を全て回収?
「まず何で死体を回収するかわかるか。別に、弔うために回収してる訳じゃねぇんだ。廃魚の再発を防ぐためだよ」
「廃魚の、再発…?」
「廃魚ってのは人間の死体を元に肉体を構成しているらしい。だから、こうして回収しねぇとまた出てくるんだとよ」
愛鈴は右手で吊るされた死体を外しながら答える。またアンコウの様な廃魚が現れてしまう。そうなればまた多数の被害者が出てしまう。それは絶対に避けなければならないことだ。
「愛鈴、外すのは僕がやるよ。だから、死体のある場所へ連れて行ってよ」
「ああ、助かる。ありがとな!」
僕達はアンコウの元を一度離れ、死体の回収に専念した。
胸に残るわずかな違和感に蓋をして。
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