第8話 初任務
入隊試験の傷の治療とリハビリを終え、僕は武器の調整をしていた。
入隊試験以降、廃魚討伐の指示は受けていないが、いつきてもいいよう準備するのは無駄ではないだろう。
「おっ、湊。もう色々準備してるのか」
雄大さんが話しかけてくる。葬式の後、紗代香さんの件を雄大さんに謝った。だが、雄大さんは僕を責めることなく気にするなと言ってくれた。
「はい、いつ指示を受けてもいい様にしてるんです」
「真面目だなぁ。俺なんて何もしてないぞ」
雄大さんはニコリと笑う。僕も釣られて笑ってしまった。
ピーンポーンパーンポーン
「隊員の呼び出しです。小鳥遊隊員、大原隊員は隊長室へ来てください」
呼び出し?まさか、何かやってしまっただろうか。心当たりは正直無いが、気づいてないだけで何か……
「そんな不安そうな顔するなって。心配している様なことは何もねーよ」
「えっ、どういうことですか」
「行ったら分かるよ」
僕は疑問を抱きながら雄大さんに着いて行くことにした。
「隊長、失礼します」
「入れ」
緊張しながら中へ入る。雄大さんは平気そうだが僕は僕は全く持って平気じゃない。
「今日きさまらを呼び出したのは他でもない、廃魚討伐の任務を伝えるためでち」
「えっ、任務?」
「そうでち。逆に、それ以外何があるんでちか」
てっきり何かしてしまったのかと思っていたが、そういう訳ではなかったのか。安心すると同時に気を引き締めた。
任務を言い渡されるということはまた命の危険に晒されるということ。もう、紗代香さんの二の舞にはさせたくない。
「今回討伐してもらうのはメソペラジックレベルのホタルイカでち。本来なら、エピペラジックレベルから討伐してもらうんでちが、バチペラジックレベルを倒したきさまならできると思うでち」
メソペラジックレベル。初めて僕が出会った廃魚、シュモクザメと同じ。だが、オニダルマオコゼよりは弱い。きっと大丈夫だ。
「ホタルイカの能力は光の粒。粒自体に攻撃力はないでちが視界が妨げられるから要注意でち」
「はい」
「では、廃魚討伐へ行くでち!」
隊長の指示と同時に僕達はワープ石を握り締めた。しばらくすると、見知らぬ建物が現れた。
「ここは元々劇場だったらしい。時間が経つに連れて客が来なくなり、閉めることになったんだ」
そこそこ大きな劇場だが、どこか古さを感じる。時代の流れについていけず、潰れてしまったのだろう。
「あの、雄大さん」
「ん?何だ?」
「もし、今回の廃魚も突然変異体だったらどうしたらいいんでしょうか。そうだったら、僕はまた生き残れるんでしょうか」
廃墟を見た途端恐ろしくなり、聞いてしまった。
目を瞑れば流れてくるのはあの光景。目の前で人が串刺しにされる姿。もし次の廃魚も突然変異体だったら、僕はまた生きて戻ってくることはできるのだろうか。
「悪いが、そういうことはわからない。実際に起こるまでな」
「えっ」
「俺たち、廃魚漁猟隊は本当にいつ死ぬかわからない。明日かもしれないし、今日かもしれない。そう考えて不安な時は、生き残れる未来を想像するんだ。そうすれば少しは楽になる。想像すれば、大丈夫だって思えるんだ」
僕は驚いた。そんな考え方があるだなんて。でも、確かにそうだなと思った。どうせ死ぬのだからと思うより、生き残れると思い戦うほうがよっぽどいい。
そうか、そんな単純なことでいいのか。いつの間にか心の内の不安は薄れていた。
「とっとと倒すぞ湊」
「はい、雄大さん!」
「敬語もさん付けもいらねーよ。これからは仲間だろ」
「…ッ!わかったよ雄大!」
僕達は劇場へと足を踏み入れた。
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