第3話 入隊試験
ひたすら本拠地という名の廃墟を進んでいく。ここは学校だったからか一部の教室には一のAなどと書かれた学級表札がまだ残っている。
「よし、着いたぞ」
そこには校長室の校長の部分に縦線が引かれ、書き直されている『隊長室』があった。
「小鳥遊です入隊希望者を連れて参りました」
「入れ」
扉を開けた先にいたのは、大きな椅子に座る小さな女の子。一体何の冗談だ。
「きさまが入隊希望者でちか。ウチが廃魚漁猟隊隊長、
まさか本当に隊長だったとは……
「その、大原 湊です。よろしくお願いします」
「なるほど…、合格でち」
「へぁ」
「一次試験合格でち」
驚きなあまり変な声が出てしまった。ただ顔を合わせただけで合格?どういうことなのだろう。
「もう言っていいよな。一次試験の合格条件は隊長を見て舐めた態度を取らないことだ。まぁ、あの見た目だからな。あれでも三十路なんだぜ」
あの見た目で三十路……。パッと見でも翔宇くんより幼そうなのに。
「そこ!聞こえているでちよ。それに、喜ぶのはまだ早いでち。試験は三次試験まであるでち」
「え!?さ、三ですか」
「そうでち。二次試験では戦闘時の冷静さを見る試験でち。わかったらこっちへ来るでち」
椅子から降り、部屋を出ていく千衣子さんを慌てて追いかける。またしばらく廊下を歩くと、飼育室と書かれた部屋にたどり着いた。
「少し刺激が強いと思うでちが、これに耐えられなきゃ、入隊なんて夢のまた夢でちよ」
そう言って千衣子さんは扉を開けた。目の前に広がったのは……
「ッ……!」
ガラスの中にいる大量の腐ったイワシの群れ。
「ウチらはこうして、この廃墟にいる廃魚を捕らえているんでち。こいつらを十匹殺す。それが二次試験の合格条件でち」
殺す。つまり戦闘しろということだ。それは構わない。この部隊に入る以上、廃魚との戦闘は必要不可欠だ。だが……
「あ、あの捕まえているのに、殺していいんですか」
「雄大から説明されていないんでちか。廃魚には特殊な力があるんでち。例えば、このイワシは一時間ごとに等倍に増えるという特性があるでち」
「エッ、それって」
相当危険だ。今見ただけでも五十はいる。それが一時間後には倍に……
「でも、増える数はその増えるタイミングの数の倍でち。それに、こいつらは個々では弱い。冷静に対処すれば死ぬことはないでち」
「で、でも、僕戦闘経験だってありませんよ」
いくら弱いといえど、戦闘経験がなければ攻撃を当てられるとは思わない。それに、このイワシもただやられるだけではないだろう。
「そこは大丈夫でち。死にそうになったら助けてやるでち。ちゃんと殺すでちよ」
千衣子さんは僕に拳銃を渡してくる。
「あ、あの、ちょっとまっ——」
「早くいくでち!」
背中を蹴り、ガラスの中に放り込む。その瞬間、鼻を突き抜けるような腐臭が辺りに立ち込める。イワシの群れは僕を認識すると、弾丸のように飛び込んできた。
「…ッ!」
間一髪で攻撃を避ける。だが、一匹、また一匹と次々に突進してくるイワシを避けるのは至難の業だ。
避けようとして何度も倒れる。何度も銃を落としてしまう。その度に拾い、なんとか当てようとする。だが、照準を合わせている間にまた撃ち落とされてしまう。
そんなイタチごっこを永遠に繰り返し、僕の体力はかなりすり減っていた。まだ一匹も殺せていない。もう無理だと思ったその時、ふとあることに気がついた。
銃口がイワシの方を向いている。
たまたま向いたのだと思えばそれまでなのだが、地面に落ちた銃は必ずイワシの方を向く。動くイワシに合わせて、銃がクルクルと回転する。
銃を手に取り、腕の力を抜く。勝手に銃が獲物に照準を合わせる。
そして引き金を、引いた。
グシャッ
弾が突っ込んできたイワシに当たり、肉片が辺りに飛び散る。他のイワシはそんなことは気にも止めず、先程と同じように突進してくる。だが、攻略法がわかった僕は冷静に対処できた。
一匹、二匹、三匹、確実に仕留めていく。そしてついに十匹の廃魚を殺すことができた。
「よし、十分でち。戻って来ていいでちよ」
千衣子さんの声で、僕は廃魚のいるガラスから出る。腐敗臭から解放され、一気に気持ちが緩んだ。
「お見事。合格でち。ちゃんと武器の特性に気づけたでちね」
「え?どういうことですか」
特性とは多分あのイワシに銃口が勝手に向いたことだろう。あれは一体どういうものなのだろう。
「あの銃は廃魚の死骸で作られたものでち。廃魚は他の廃魚に反応する特徴があるでち。それを利用して自動照準機能を作ったというわけでち。まぁ、その分相手にも気づかれやすいんでちが……」
「へぇ、凄いですね」
「そういうのは加工班の
加工班?武器の加工を担当している方々だろうか。
「それじゃあ、次が最後の試験。実戦でち」
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